エピローグ 誰にも理解されることのない
リャンは首をかしげる。
「また何か変なこと考えてるだろ。」
イーサンは笑いながら首を振った。
「いや、実用的な使い道だ。」
そう言うと、イーサンは能力を使ってブラジャーを元の大きさに戻した。
「おお……。」
二人の目の前には、大きなブラジャーが広がる。
リャンは思わず目を丸くした。
「結構大きいな。」
イーサンも苦笑する。
「この持ち主は胸が大きかったのかもしれないな。」
するとイーサンは、ふかふかしたカップの部分へ軽く飛び乗った。
「おっ。」
柔らかなクッションのように沈み込み、体が優しく支えられる。
イーサンは満足そうに笑った。
「リャン、お前も飛び込んでみろよ。気持ちいいぞ。」
リャンは一歩引いて苦笑する。
「……いや、ちょっと躊躇うな。」
イーサンは首をかしげた。
「どうしてだ?」
リャンは呆れたようにため息をつく。
「お前、自分の姿を鏡で見てみろよ。女ものの下着に飛び込んで堪能してる変態みたいだぞ。」
イーサンは気にした様子もなく笑う。
「そんな恥は捨てろよ。」
少し得意げな表情になる。
「アウラさんはこう言った。『 新しい発見は、だいたい変なことから始まる。』って。」
リャンは思わずツッコミを入れる。
「いや、その言葉の使い方、絶対違うだろ。」
イーサンは肩をすくめた。
「細かいことは気にするな。ほら、とりあえずやってみろよ。」
ここまで勧められると断り切れず、リャンは渋々ブラジャーのカップへ飛び込んだ。
「……おっと。」
体がふわりと沈み込み、柔らかな感触が全身を包み込む。
予想以上の弾力に、思わず目を見開く。
「……。」
イーサンはニヤニヤしながら尋ねた。
「どうだ?」
リャンは無言になった。
カップの中へ体を預けたまま、しばらく目を閉じる。
すると、何かを悟ったような表情になる。
(……何これ、気持ちいい。)
ふんわりと包み込まれるような感覚。
柔らかな弾力が全身を支え、不思議な安心感が胸の中に広がっていく。
(なんだろう……。)
幼い頃の記憶はほとんど残っていない。
それでも、顔も覚えていない母親に抱きしめられていたら、こんな感覚だったのかもしれない――そんな漠然としたイメージが頭をよぎった。
リャンは少し目を潤ませ、小さく笑う。
「……悔しいが、快適だ。」
イーサンは得意げに腕を組む。
「そうだろう。」
リャンは起き上がりながら苦笑した。
「最初は変なこと言ってると思ったけど、これは予想外だった。」
イーサンは残っている袋へ視線を向ける。
「じゃあ、他にも試してみよう。」
リャンは首をかしげる。
「試す?」
イーサンは袋から別のものを取り出しながら説明した。
「ほら、形も素材も少しずつ違うだろ。」
「確かに。」
「寝心地を比べて、どれが一番いいか調べるんだ。」
リャンは思わず吹き出した。
「何だその基準。」
イーサンは真面目な顔で答える。
「寝具選びは大事だからな。」
「いや、それ寝具じゃないだろ。」
こうして二人は、素材や柔らかさ、反発力などを真剣に確かめ始める。
「これは少し硬い。」
「こっちは沈み込みすぎるな。」
「この生地、さらさらしてる。」
「意外とこっちの方が寝返りしやすい。」
いつしか二人は本来の目的を忘れ、まるで研究者のように議論を重ねていた。
こうして、誰にも理解されることのない**「寝るのに最も快適なブラジャー選手権」**が、ひっそりと開幕した。
最終的に、いくつもの候補を見比べた末、イーサンは一つを手に取った。
「やっぱり、これがいいな。」
そう言ってイーサンが選んだのは、最初に選んだスポーツタイプのブラだった。
リャンも頷きながら答える。
「俺もそれが一番だと思う。」
イーサンは素材を指先で確かめるように軽く押してみる。
「でも、もう少しだけ柔らかさが欲しいかな。あと一歩って感じなんだよ。」
その言葉を聞いたリャンは、何かを思いついたように笑みを浮かべた。
「だったら、こうしたらどうだ?」
リャンは荷物の中から、以前狩った鴨の羽を取り出す。そして裏側にあるパッド
ポケットへ、ふんわりと羽を均等に詰めていった。
「これでどうだ?」
完成したものを受け取ったイーサンは、慎重に感触を確かめる。
「おお……さっきより柔らかさが増してる。」
驚いたような表情を浮かべるイーサンに、リャンは満足そうに胸を張る。
「だろ? 羽毛は軽いし、柔らかいからな。」
「なるほど。これなら使い心地もかなり良くなりそうだ。」
二人は出来栄えに顔を見合わせると、小さく笑い合い、自分たちの工夫がうまくいったことを喜び合った。




