エピローグ チャオメン風
2020年5月8日
福岡県福岡市・拠点
ある目的を果たし、外から戻ってきたイーサンたちは、ひと息つく間もなく夕食の準備を始めた。
荷物を床に置いたイーサンが周囲を見回しながら尋ねる。
「飯はどうしようか?」
すると、食材を並べていたリャンが得意げな笑みを浮かべた。
「今日は今までの中でも豪華だぞ。」
「え、本当か?」
イーサンが目を輝かせると、リャンは胸を張って答える。
「なんと、チャオメン風だ。」
「チャオメンか」
イーサンが感心する
チャオメンとは、中華麺を炒めて作る、
焼きそばのような料理である。
前の世界ではよく食べたものだ。
「へえ、それは楽しみだ。」
期待を込めてイーサンが言うと、リャンは材料を一つずつ並べ始めた。
「材料はシンプルだ。麺、キャベツ、それから――これだ。」
そう言って取り出したのは、一つの肉の缶詰だった。
イーサンは缶を覗き込みながら聞く。
「これは?」
「文字は読めなかったんだが、中に鶏肉が入っていてな。」
リャンは缶を軽く持ち上げながら続ける。
「少しだけ味見してみたら、『これならチャオメンに合う』って思ったんだ。」
「なるほど。ずいぶん豪華になるな。」
「そうだろ? 今日は少し贅沢だ。」
二人は満足そうに顔を見合わせると、さっそく調理の準備に取りかかった。
もっとも、二人はまだ知らない。
その缶詰の正体が、焼き鳥のタレ味であることを。
外へ出ると、二人はさっそく調理を始めた。
イーサンが焚き火の準備をしている間、リャンは食材の下ごしらえに取りかかる。
キャベツを一枚ちぎり、鶏肉もひとかけら切り分けると、それぞれを細かく刻んだ。
「それじゃ、戻すぞ。」
リャンは能力を使い、切り分けた食材だけを指定して元の大きさへ戻した。
最近になって判明したことだが、この能力は範囲を指定すれば複数の物を同時に元の大きさへ戻せることが分かっていた。
一瞬で、刻まれていたキャベツと鶏肉は二人の体格に見合う大きさへと変化する。
リャンは満足そうにうなずいた。
「よし。」
その頃には焚き火の上の鍋から湯気が立ち始めていた。
「どうだ、お湯は?」
イーサンは鍋をのぞき込みながら答える。
「ああ、いい感じに沸いたよ。」
リャンは中華麺を鍋へ入れ、菜箸でゆっくりほぐしていく。
「こっちは元の大きさには戻さず、私たちサイズのまま食べるぞ。」
「その方が扱いやすいからな。」
麺が柔らかくなるまで茹でると、湯を切ってフライパンへ移した。
まずはキャベツを炒める。
ジュッという音とともに甘い香りが立ち始め、少し火が通ったところで鶏肉を加える。
さらに麺を入れ、全体を手早く混ぜ合わせた。
最後に、元の大きさの焼き鳥缶から少量のタレだけを取り出し、麺へ回しかける。
タレが熱で煮詰まり、麺や鶏肉によく絡んでいく。
辺りには醤油と砂糖が焦げる香ばしい匂いが漂い、食欲をそそった。
イーサンは鼻をひくつかせる。
「これは……いい匂いだな。」
リャンはフライパンを軽くあおり、最後に全体を混ぜ合わせると火から下ろした。
「ついに完成だ。」
皿に盛り付けられたチャオメン風の麺料理は、キャベツの鮮やかな緑と鶏肉の照りが映え、質素ながらも十分に豪華な一皿になっていた。
イーサンは思わず笑みを浮かべる。
「今日は当たりだな。」
リャンも満足そうにうなずき、二人は湯気の立つ料理を前に手を合わせた。
「いただきます。」
リャンが一口、麺をすすった。
「……おお。」
思わず目を見開く。
「これ、予想以上にうまいぞ。」
甘辛いタレが麺によく絡み、焼き鳥の香ばしさが口いっぱいに広がる。キャベツの甘みとシャキシャキした食感も良いアクセントになっていた。
イーサンも続いて一口食べる。
「本当だ。」
しばらく無言で噛みしめた後、満足そうにうなずいた。
「麺はもちもちしてるし、タレがちょうどいい。鶏肉も柔らかいな。」
リャンは笑いながら言う。
「文字は読めなかったけど、この缶詰を選んだのは正解だったな。」
イーサンはもう一口食べる。
「鶏肉の旨味がしっかり出てる。キャベツも甘くなっていて食べやすい。」
「缶詰のタレだけでここまで味がまとまるとは思わなかった。」
リャンは皿を見つめながら感心する。
「調味料が少ない今の私たちには、この缶詰はかなり貴重だな。」
イーサンもうなずく。
「次に見つけたら、何個か確保しておきたい。」
二人は言葉を交わしながらも箸は止まらず、温かく香ばしい料理を味わった。
食べ終えたリャンは満腹そうに息をつく。
「ごちそうさま。」
「今まで食べた中では、一番うまい飯かもしれない。」
イーサンも空になった皿を見て笑った。
「材料はシンプルなのにな。不思議なもんだ。」
こうして、一日が終わりを迎えた。
今日もまた、生き延びることができた。
限られた食料を工夫し、能力を活用しながら生活する日々。
小さな発見や失敗を積み重ね、その一つ一つが明日を生きるための経験となっていく。
これは、二人がここまで歩んできた記録のほんの一部に過ぎない。
未知の世界で待ち受ける困難も、新たな出会いも、今はまだ誰にも分からない。
この先、どのような道を選び、どのような運命を切り開いていくのか。
それは──二人自身の選択に委ねられている。
完




