エピローグ コルセットみたいなもの
2026年5月7日
福岡県福岡市・拠点
朝の柔らかな日差しが窓から差し込み、部屋の中を明るく照らしていた。
イーサンはゆっくりと目を覚ます。
「……あれ、今何時だ?」
懐中時計を取り出して蓋を開く。
針は午前七時を指していた。
「もう朝か。」
そこで昨日のことを思い出す。
「そういえば、あの後眠たくなったから、続きはまた別の日にしようって言って、歯を磨いて寝ちゃったんだ。」
イーサンは苦笑しながら立ち上がった。
しばらくすると、隣で眠っていたリャンも目を覚ます。
「ふぁぁ……おはよう。」
「おはよう。」
軽く朝の支度を済ませると、二人は昨日の続きを始めることにした。
リビングには、まだ開けていないビニール袋が三袋残っている。
「今度は服だな。」
リャンは期待しながら一袋目を開けた。
袋の中には、予想通りたくさんの衣服が入っていた。
Tシャツやズボン、上着など、種類も色も様々である。
さらに中を見ていくと、厚手の服や薄手の服まで混ざっていた。
リャンは嬉しそうに一着を手に取る。
「これはちょうどいい感じだ。」
イーサンも思わず笑みを浮かべる。
「本当だ。」
二人は思わず顔を見合わせる。
夏用の服だけでなく、冬用の厚手の服まで入っている。
これから長く生活していくことを考えると、予想以上の収穫だった。
「これはいい誤算だな。」
二人は早速気になる服を試着し始めた。
リャンは新しい服へ着替え、腕を動かしたり体をひねったりして着心地を確かめる。
「いやー、これはいいな。」
満足そうに笑いながら続けた。
「むしろ今まで着た服の中で一番着心地もいいしな。」
イーサンも袖を伸ばしながらうなずく。
「確かに着やすい。」
しかし、服をじっくり見ながら少し考え込む。
「ただ気になったのは、この服、まだ使えるということだ。」
多少色褪せているものや使用感はある。
それでも普通に着る分には何の問題もない。
リャンも服をたたみながら首を振った。
「確かにな。こんないい服を普通に捨てるなんて、一体どんだけ贅沢な暮らしをしているんだ。」
そうつぶやくと、小さくため息をついた。
一袋目の整理を終えると、今度は二袋目を開ける。
こちらには衣服ではなく、タオルや靴下などの日用品が詰められていた。
タオルは多少色褪せているものや、一部ほつれているものもある。
靴下も何足かは穴が開いていたが、大半は十分使える状態だった。
イーサンはタオルを広げて眺める。
「何か書いてあるな。」
タオルには日本語で文字が刺繍されていた。
しかし、まだ日本語を完全には理解できない二人には、その意味までは分からない。
リャンは苦笑しながら肩をすくめる。
「もっと日本語を覚えないとな。」
「そうだな。」
二人は使えそうなものと修理が必要そうなものを分けて整理していく。
やがて二袋目の確認も終わり、部屋にはきれいに畳まれた衣類やタオルが並んでいた。
そして二人は顔を見合わせる。
「さて……。」
「最後の一袋だな。」
リャンは期待と少しの緊張を胸に、最後に残った三袋目へ手を伸ばした。
リャンは最後に残ったビニール袋を床へ置く。
「さて、最後だな。」
イーサンもうなずきながら袋の口を開いた。
中身を見た瞬間、二人は同時に固まる。
リャンは思わず苦笑した。
見たら分かる。
「……女性ものやん。」
袋の中にはワンピースやスカート、女性用と思われる衣類が何着も入っていた。
イーサンは少し驚きながらも冷静に答える。
「まあ、でもいざという時は使えるだろう。体格はほぼ変わらないし。」
リャンも納得したように肩をすくめる。
「確かに、着るかどうかは別として、布としても利用できるしな。」
二人は一着ずつ確認しながら仕分けを進めていく。
その途中、イーサンが一つの衣類を手に取った。
「……なんだこれは?」
普通の服より小さく、前面に丸い部分が二つ付いた、不思議な形をしている。
イーサンはじっと見つめたまま動かない。
「どこかで見たことがあるぞ……。」
記憶をたどるように目を閉じ、しばらく考え込む。
そして突然、目を開いた。
「思い出した。これ、ブラジャーだ。」
リャンは首をかしげる。
「なんだそれ?」
イーサンは手に持ったまま説明する。
「コルセットみたいなものだ。私達の世界では今流行り始めている女性用下着だ。」
リャンは感心したようにうなずいた。
「へえー、そうなんだ。」
イーサンは続ける。
「まだ上流階級くらいしか馴染みがないからな。一般にはほとんど広まっていない。」
もちろん、この時の二人は知らない。
彼らは知らないが手にしているのは、この世界では一般的なスポーツタイプのブラジャーだった。
リャンは苦笑しながら尋ねる。
「どうする? こんなのいらないよな。」
しかしイーサンは返事をせず、ブラジャーの内側にある柔らかなパッド部分を指で押したり、感触を確かめたりしていた。
リャンは不思議そうに近寄る。
「何しているんだ?」
イーサンは少し考え込んだ後、口元に笑みを浮かべる。
「……いいこと思いついた。」




