最低限の生活を得るために 大掃除
二人は新たに開けた穴をじっと見つめていた。
扉の下部には、今の彼らにとって十分な大きさの出入口ができていた。巨人から見ればただの壊れた部分にしか見えないが、二人にとっては新しい生活への第一歩だった。
リャンは穴の前まで歩いていき、大きさを確かめるように見回した。
「この大きさなら馬を入れる事が出来る。荷物を積んだままでも何とか通れそうだ。これなら毎回換気口を使わなくて済むな。」
イーサンは穴の縁を指でなぞりながら首を横に振った。
「いや、まだ終わりじゃない。このままだと木がささくれている。馬が通れば体を傷つけるかもしれないし、私達も荷物を運ぶ時に怪我をする。とりあえず周りを少しなめらかにしよう。」
リャンも穴の縁を見て納得したように頷く。
「確かに。せっかく作った出入口で怪我をしたら意味がないな。細かいところまで仕上げよう。」
二人は荷物の中からヤスリを取り出し、木のささくれを少しずつ削り始めた。
ゴリゴリという音が静かな音が響く。
時間をかけて丁寧に磨いていくと、鋭く尖っていた木片は次第に丸みを帯び、安全に通れる出入口へと変わっていった。
イーサンは最後に手で触れて確認する。
「これなら大丈夫だ。馬も安心して通れる。」
リャンは満足そうに笑った。
「よし、それじゃあ引っ越しを始めよう。」
二人は馬を呼び寄せ、慎重に新しく作った出入口を通して家の中へ導いた。
リビングは段差が低く馬でも入りやすかった。
馬は少し戸惑いながらも静かに穴をくぐり抜け、無事にリビングへと入る。
続いて食料や道具、寝具、調理器具などの荷物も一つずつ運び込んでいった。
何度も家と外を往復し、最後の荷物を運び終えた頃には、空はすっかり茜色から群青色へと変わっていた。
リャンは窓から差し込む薄暗い夕焼けを見ながら、大きく息を吐いた。
「気が付けばもう夜か。一日中動き回っていたんだな。」
イーサンも荷物を見渡し、満足そうに頷いた。
「ああ。でも、そのおかげで今日からようやく私達だけの生活が始められる。」
リャンはリビングに並んだ荷物を眺め、静かに笑った。
「昨日までは寝る場所すら決まっていなかったのにな。」
イーサンも穏やかな表情で答えた。
「拠点があるというだけで、これからできることは格段に増える。今日は長い一日だったが、その価値は十分にあった。」
こうして二人は、苦労の末に手に入れた新しい拠点で、初めての夜を迎えるのだった。
二人は桃の缶詰で軽く食事を済ませ、歯を磨くと、そのまま床に敷いた寝具へ横になった。
長い一日の疲れもあり、二人はすぐに深い眠りへと落ちていった。
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2020年4月27日
朝――。
イーサンが目を覚ますと、窓から柔らかな朝日が差し込んでいた。
鳥のさえずりが静かな家の中に響き、どこか穏やかな空気が流れている。
イーサンはゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。
「……朝か。」
昨日までとは違う景色だった。
野宿ではなく、屋根と壁に囲まれた場所で迎える朝。
イーサンにとって、新しい拠点で迎える初めての朝だった。
「家で目覚めるというのも、悪くないものだな。」
そう小さく呟くと、自然と笑みが浮かんだ。
その隣から小さな声が聞こえてくる。
「ううっ……。」
リャンも目を覚まし、眠そうに目をこすった。
「おはよう、イーサン。」
「おはよう。よく眠れたか?」
リャンは大きく伸びをする。
「ああ、久しぶりにぐっすり眠れたよ。地面の上じゃないってだけで、こんなに違うんだな。」
イーサンも頷いた。
「私も同感だ。拠点があるというだけで気持ちに余裕ができる。」
身支度を整えた二人は家の外へ出ると、いつものように焚き火を起こした。
リャンが火加減を見ながらフライパンを置く。
イーサンは保存していた鴨の干物とコーンの缶詰を取り出した。
肉を元の大きさに戻し
干物を細かくほぐし、コーンと一緒に炒めると、香ばしい匂いが辺りへ広がっていく。
リャンは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「やっぱり温かい飯は最高だな。缶詰だけで食べるより、こうして調理すると全然違う。」
イーサンも炒め物を皿へ取り分けながら微笑んだ。
「ああ。食材は限られていても、工夫すれば十分おいしく食べられる。」
二人は朝食を済ませ、温かいお茶を飲みながら一息ついた。
しばらく静かな時間が流れた後、リャンが口を開く。
「これからどうする?」
イーサンは新しい拠点を振り返りながら答えた。
「とりあえず掃除じゃないかな。」
リャンも家へ視線を向ける。
「そう言われてみれば、結構汚れてるな。」
二人が改めて家の中を見渡すと、床や窓際には長年積もった埃が厚く積もっていた。
部屋の隅には枯れ葉や小さなゴミが入り込み、空気も少し埃っぽい。
さらに昨日、玄関扉に専用の出入口を作った際に飛び散った木屑が床一面に散らばっていた。
イーサンは腕を組みながら頷く。
「まずは生活環境を整えよう。寝床は確保できたが、このままでは衛生的とは言えない。埃は病気の原因にもなるし、木屑も放置すれば歩きにくい。」
リャンもやる気に満ちた表情で頷いた。
「よし。大掃除だな。せっかく見つけた私達の家なんだ。できるだけ住みやすくしていこう。」
イーサンは箒代わりに使えそうな枝を手に取り、小さく笑った。
「そうだな。この家を本当の意味で『私達の家』にするための最初の仕事だ。」
こうして新しい生活の第一歩となる大掃除を始めるのだった。




