最低限の生活を得るために 入り口は、自ら切り開くものだ。
リャンは興奮を抑えきれず、部屋の中を見回した。
「ここなら十分暮らせるじゃないか。雨もしのげるし、誰かに見つかる心配も少なそうだ。ようやく安心して眠れる場所が見つかったな。」
イーサンは頷きながらも、冷静な表情を崩さなかった。
「まだ拠点候補の段階だ。安全確認が終わるまでは気を抜くな。空き家でも小動物が住み着いているかもしれないし、定期的に管理に来る人がいる可能性もある。」
「そうだったな。」
リャンは気持ちを切り替え、真剣な表情になった。
二人は家の中をもう一度丁寧に調べ始めた。
床や壁、天井まで細かく確認したが、新しい足跡や生活の痕跡は見当たらない。
窓ガラスはところどころ汚れており、室内には薄く埃が積もっていた。
庭を見渡しても、人が最近歩いたような跡は見当たらなかった。
一通り調査を終えたところで、イーサンは静かに言った。
「現時点では問題は見当たらないな。少なくとも最近、人が生活していた形跡はない。」
リャンは安心したように大きく息を吐いた。
「それを聞いて安心したよ。じゃあ、ここを私たちの拠点にしよう。」
イーサンはリビングを見回しながら考え込んだ。
「まずは役割を決めよう。ここを住めるようにするには、やることが山ほどある。」
リャンは興味深そうに聞いた。
「例えば?」
「まず寝床の確保。それから食料置き場、水の確保、馬を休ませる場所も必要だ。さらに、この家への出入り口も整備しないといけない。」
リャンは頷いた。
「確かに毎回換気口から入るのも時間がかかる。」
「そうだ。私たち専用の出入口を決めて、目印も作ろう。」
リャンは笑みを浮かべた。
「なんだか秘密基地を作るみたいでワクワクしてきたな。」
イーサンも少しだけ笑った。
「秘密基地じゃない。ここは私たちが生き延びるための拠点だ。ここを失えば、また一からやり直しになる。」
その言葉にリャンも真剣な表情で頷いた。
「分かった。大事に使おう。」
イーサンはリビングの中央に立ち、静かに周囲を見渡した。
「今日から、この家が私たちの家だ。」
その言葉に、リャンは大きく頷いた。
2020年4月26日
長い探索の末、二人はようやく安心して暮らせる最初の拠点を手に入れたのだった。
感動しているのも束の間、リャンが現実的な問題を口にした。
「その専用の出入口はどうしようか?」
この家は完全に締め切られていた。ドアも窓も鍵が掛かっている。
開けること自体は不可能ではない。しかし、今の彼らにとって、人間用のドアを開閉するだけでも一苦労だった。
イーサンは少し考えると、静かに言った。
「大丈夫だ。アウラさんはこう言っていた。『入り口は、自ら切り開くものだ。』」
リャンは首をかしげる。
「……??」
「どういう意味だ?」
イーサンは何も答えず、荷物の中から散弾銃を取り出した。
リャンは目を丸くする。
「お、おい。どこへ行くんだ?」
イーサンは散弾銃の状態を確認しながら、落ち着いた口調で答えた。
「外だ。」
「外って……まさか。」
リャンは嫌な予感を覚えながら、その後を追った。
二人は再び換気口から外へ出て、玄関の前までやって来た。
イーサンは巨大な玄関扉へ歩み寄ると、木の表面にそっと手を触れた。
木目を指でなぞりながら、小さく頷く。
「やはり木製だ。」
リャンは不思議そうな顔をする。
「それがどうしたんだ?」
イーサンは扉を見上げたまま答えた。
「木なら加工できる。人間にとってはただの小さな穴でも、私達には立派な出入口になる。」
リャンはようやく意図を察し、目を見開いた。
「まさか……玄関に私達専用の入口を作る気か?」
イーサンは静かに笑った。
「その通りだ。毎回換気口を使うのは効率が悪い。ここに専用の出入口を作れば、荷物の搬入もずっと楽になる。」
そう言うと、イーサンは散弾銃を構えた。
リャンは思わず一歩後ずさる。
「ちょ、ちょっと待て! 本気でやるのか!」
イーサンは照準を定める。
「耳を塞いでいろ。」
次の瞬間――
バン!
乾いた銃声が周囲に響いた。
木製の扉の表面から木片が飛び散る。
「うおっ!」
リャンは思わず身を縮めた。
しかしイーサンは気にする様子もなく薬莢を排出し、撃ち込んだ場所をじっと見つめる。
イーサンは傷の具合を確認すると、小さく頷いた。
「あと少しだ。」
リャンは慌てて耳を押さえる。
「まだ撃つのか!」
イーサンは短く答えた。
「二発で終わらせる。」
そう言うと再び照準を合わせる。
バン!
二発目の銃声が静かな住宅街に響き渡った。
木片が勢いよく飛び散り、扉には先ほどより大きな穴が開く。
リャンは舞い上がる木くずを払いながら目を見開いた。
「おお……思った以上に削れてる。」
イーサンは散弾銃のスライドを引き、薬莢を排莢する。
赤色のゲージが地面へ転がり、小さな音を立てた。
「もう一発だ。」
深く息を吸い、最後の照準を合わせる。
バン!
三発目が放たれると、扉の一部が砕けるように崩れ落ち、木片が周囲へ飛び散った。
静寂が戻る。
リャンは慎重に近づき、開いた穴を見上げる。
「これは……。」
イーサンも穴の大きさを確認し、満足そうに頷いた。
「十分だ。人間には壊れた扉の小さな穴にしか見えないだろう。だが私達にとっては、立派な専用の出入口だ。」
リャンは思わず笑みを浮かべた。
「まさか本当に『入り口を切り開く』とはな。」




