最低限の生活を得るために 衣食住を確保
2020年4月25日
福岡県福岡市・大濠公園
二人が目を覚ました頃には、すでに朝日が昇っていた。
自販機の機械音が静かに響き、公園には散歩をする人々の姿もちらほら見え始めている。
イーサンとリャンは人目を避けながら木の洞へ戻った。
荷物を置くと、イーサンはノートを広げる。
「昨日だけで分かった事が多すぎる」
リャンも頷いた。
「整理しないと忘れそうだな」
イーサンは鉛筆を手に取った。
「まず日時からだ」
昨日スマホで確認した情報を思い出しながら書き込む。
2020年4月25日
その数字を見ながら考える。
「今回の件で分かったが、私たちが想像していた日時より四日ずれていた」
「つまり?」
リャンが尋ねる。
「この世界に来たのは四月十二日頃だと思われる」
リャンは少し驚いた。
「もうそんなに経つのか」
「ほぼ二週間だな」
イーサンも複雑な表情を浮かべる。
異世界へ来てから毎日が濃すぎて、時間の感覚がおかしくなっていた。
「次に能力についてだ」
イーサンは新しいページを開いた。
タイトルを書く。
縮小能力について
そして箇条書きで整理していく。
⸻
・触れて頭の中で念じると小さくできる。
・同じように念じると元の大きさへ戻せる。
・生きている物には反応しない。
・生きている者が身に着けている物にも反応しない。
・地面や建物と一体化している物は反応しない。
・縮小した容器などの中に物を入れた場合、中身もその状態で維持される。
・元の大きさへ戻した場合、中身も同時に元へ戻る。
⸻
イーサンは書き終える。
「まあ、ざっとこんな感じだろうな」
リャンはノートを覗き込んだ。
「便利だけど謎だらけだな」
「だな」
イーサンも同意する。
リャンは荷物を整えながらイーサンに目を向け、穏やかな口調で尋ねた。
「今日はどうする?」
イーサンは少し考え、昨日見た景色を思い浮かべながら答える。
「今日は南東に行ってみようか。」
昨日、地図アプリで確認した住宅地のことが頭から離れなかった。何か生活の足がかりになるものが見つかるかもしれない。
イーサンは真剣な表情になり、リャンへと言葉を続ける。
「今の目標は衣食住を確保することだ。」
リャンは力強くうなずく。
「そうだな。最低限の生活は必要だからな。」
イーサンも同意するようにうなずき、静かに言った。
「その通り。」
少し視線を遠くへ向けると、アウラの言葉を思い出すように続ける。
「アウラさんはこう言っていた。『人間は“高等生物”なんて偉そうに言うが、飯と寝床を失えば、結局は雨宿りする動物に戻る。』って。」
リャンはその言葉を胸の中で反芻し、小さく息をついた。
「……耳が痛い話だけど、その通りだな。」
二人はしばらく無言になり、周囲の景色を見渡した。
その言葉は、未知の環境で生きる二人にとって、何よりも現実的な指針となっていた。
イーサンは馬を見つめながら口を開いた。
「まず初めにやる事がある。」
リャンは首を傾げる。
「何だ?」
イーサンは馬へ目を向けた。
「馬具を作るか。」
「馬具?」
「鞍、手綱、くつわ、それに鐙だ。このままじゃ騎乗もしづらい。」
「確かにな。長旅をするなら必要だ。」
まず最初に、以前回収した落ちていた空き缶やペットボトル、壊れたプラスチック片、針金、輪ゴム、ビニール紐など、色々と集めていったものを並べた。
リャンは山積みになった資材を見て苦笑する。
「改めて見るとずいぶん集めたな。」
「こういうガラクタほど役に立つ。」
そしてイーサンは、大事そうに包んでいた鴨の皮を取り出した。
「それと、以前狩りをした時に取っておいた鴨の皮を使う。」
「そのために残してたのか。」
「丈夫でしなやかだからな。革の代わりには十分だ。」
イーサンは皮を元の大きさに戻すとナイフを取り出す、鴨の皮を細長く切り分け始めた。
「幅を揃えないと強度が落ちる。」
革紐を何本も作ると、それを三本ずつ丁寧に編み込み、丈夫な帯へと仕上げていく。
リャンも反対側を押さえながら手伝った。
「意外と硬いな。」
「乾燥させてあるからな。その分丈夫だ。」
次にイーサンは、細くてしなる木の枝を曲げ、馬の背中の形に合わせた骨組みを作る。その上から鴨の皮を張り、ビニール紐でしっかりと縛り上げて簡易的な鞍を形にしていく。
「荷重が一点に集中しないようにする。」
「これなら馬も痛くなさそうだ。」
続いて、革紐をさらに細く切り分け、長い一本の手綱を編み上げた。
空き缶は石で叩いて平らに伸ばし、角を丸く削る。
その金属板を筒状に曲げ、内側に薄く削ったプラスチック片を当てて口当たりを柔らかくし、針金で固定して簡易的なくつわを作った。
「金属が直接当たると傷つくから、これを挟む。」
リャンは感心したようにうなずく。
「細かいところまで考えてるな。」
最後に、空き缶をさらに切り出して小さな輪を二つ作り、針金で補強する。
それを革紐へ取り付け、足を掛けるための鐙を完成させた。
「これなら乗り降りもしやすい。」
「全部、拾った物だけで作ったとは思えないな。」
イーサンは完成した馬具を馬へ取り付け始めた。
まず鞍を背中へ静かに載せ、位置を何度も調整する。
「少し後ろ。」
「この辺か?」
「いや、あと少し前だ。」
位置が決まると腹帯を締め、手綱とくつわを装着する。
最後に左右の鐙を取り付けると、一式の馬具が完成した。
イーサンは馬の周りを一周して確認する。
「よし……歩かせてみよう。」
リャンが手綱を引くと、馬は落ち着いた様子でゆっくり歩き始めた。
鞍もずれることなく、鐙も揺れすぎることはない。
「問題なさそうだな。」
「ああ。完璧とは言えないが、これなら十分使える。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
廃材と鴨の皮だけで作り上げた馬具は、不格好ながらも、これからの旅を支える大切な装備となった。




