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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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44/61

最低限の生活を得るために 完全に忘れていた

イーサンとリャンは飛び上がるように振り返る。


すると先ほど地面で眠っていた女性がゆっくりと目を開いていた。


二人は凍り付いた。


スマホに夢中になりすぎて完全に忘れていたのだ。


自分たちが巨人のすぐ近くにいることを。


しかも顔から数メートルほどしか離れていない。


当然、その視界には二人の姿が映っていた。


リャンが青ざめる。


「これやばくない!?」


「どうする!?」


イーサンも一瞬硬直したが、すぐに判断した。


「とりあえず……」


彼は急いでスマホを元の大きさに戻す。


そして叫んだ。


「逃げるぞ!」


二人は全力で駆け出した。


草むらを抜け、花壇へ向かう。


そして花壇の下にできた暗い隙間へ飛び込んだ。


二人は息を殺す。


その頃、女性はゆっくりと身体を起こしていた。


「うーん……」


寝ぼけた様子で周囲を見回す。


そして眉をひそめた。


「あれ?」


少し首を傾げる。


「今、小人がいたような気がしたんだけど……」


だが次の瞬間。


彼女は額を押さえた。


「痛てて……」


「飲み過ぎた……」


「頭がズキズキする……」


女性はふらつきながら立ち上がる。


その時だった。


「あれ?」


足元に何かを見つける。


「えっ、なんでスマホがここにあるの?」


彼女は不思議そうに拾い上げた。


しばらく考え込む。


「私、落としたっけ……?」


しかし頭痛のせいか思い出せない。


「まあいいか……」


そう呟くとポケットへしまう。


そしてフラフラした足取りで公園の出口へ歩き始めた。


やがて足音は遠ざかっていく。


完全に聞こえなくなるまで二人は動かなかった。


数分後。


リャンが恐る恐る顔を出した。


「行ったか?」


イーサンも外を確認する。


「行ったみたいだな」


二人はようやく花壇の下から這い出した。


リャンは胸を押さえる。


「心臓が止まるかと思った……」


「俺もだ」


イーサンは苦笑した。


「見つかったと思ったぞ」


リャンは空を見上げる。


「気のせいだと思ってくれたみたいだな」


「助かった」


二人は同時に大きな息を吐いた。


しばらくしてイーサンが言う。


「しかし驚いたな」


「何が?」


「巨人も俺たちと同じなんだ」


リャンは首を傾げる。


「どういう意味だ?」


「酒を飲みすぎて頭を抱えるし、物を落として困るし、寝ぼけて勘違いもする」


イーサンは少し笑った。


「見た目は全然違うのにな」


リャンもつられて笑う。


「確かに」


そして二人は公園の出口の方向を見た。


女性の姿はもう見えない。


静かな夜だけが残っていた。


イーサンは小さく呟く。


「さて……」


「寝ますか」


自販機の下へ戻ると、夜風が静かに吹いていた。


リャンは疲れた様子で荷物を枕代わりに横になる。


「ふぁぁ……」


大きなあくびを一つした。


「じゃあ私は先に寝る」


イーサンはうなずく。


「おう」


リャンは目を閉じた。


今日一日で起きた出来事はあまりにも多かった。


異世界。


巨人。


未知の都市。


そしてスマホ。


疲労も限界だったのだろう。


すぐに寝息が聞こえ始めた。


イーサンは苦笑する。


「相変わらず寝るのが早いな」


彼は荷物から本を取り出した。


そして今日の記録を書き始める。


⸻


日誌


今日はいろんな事を知った。


まず私たち自身の能力についてだ。


以前から普通ではないと思っていたが、この世界へ来てから改めて実感した。


まだ分からない事も多いが、今後も調べていきたい。


次に周辺の地形。


オオホリパーク周辺の地図を手に入れる事ができた。


道路。


建物。


病院。


図書館。


重要そうな施設はある程度把握できた。


これは大きな成果だ。


そして言語。


翻訳機能のおかげで、この世界の言葉を少し学ぶ事ができた。


まだ話す事はできないが、最低限の単語は覚えられたと思う。


さらに世界の情勢。


現在この世界では大規模な疫病が流行している。


そのため人々はマスクを着け、外出も減っている。


昼間に感じた違和感の理由がようやく分かった。


だが今日一番驚いたのは別だ。


あの板のような機械。


翻訳。


地図。


ニュース。


世界地図。


検索。


その他にも理解できていない機能が大量に存在している。


あれ一つで図書館に匹敵する知識を得られる。


本当は持ち帰りたかった。


しかしそうすると持ち主の巨人が探し回る可能性がある。


その結果、私たちが発見される危険も高まる。


だから断念した。


判断としては正しいと思う。


だが惜しい。


非常に惜しい。


あれを得る事ができれば生活の安全性は飛躍的に向上するだろう。


なんとか得る手段はないのだろうか。


今後の課題である。


さらに驚いた事がある。


この世界の地形だ。


山脈。


海岸線。


大陸。


どれも私たちの世界とほとんど同じだった。


しかし国名は違う。


祖国イストニアが存在した地域にはアメリカという国があった。


他の地域も似ているが異なっている。


まるで同じ設計図から作られた別の世界のようだ。


そして一つ疑問が残る。


なぜ私たちは祖国付近ではなく、この日本という東の国へ飛ばされたのだろうか。


偶然なのか。


それとも理由があるのか。


今のところ全く分からない。


もし誰かが意図的に私たちをこの世界へ送ったのだとしたら――


なぜ日本なのか。


なぜ福岡なのか。


なぜ大濠公園なのか。


考えれば考えるほど謎は増える。


今はまだ答えがない。


⸻


イーサンはそこで筆を止めた。


しばらく夜空を見上げる。



自販機の明かりが周囲をぼんやり照らしている。


遠くでは救急車のサイレンが聞こえた。


この世界は確かに生きている。


そして自分たちは、その巨大な世界の片隅にいる。


「いつか分かるのかな……」


小さく呟く。


誰に聞かせるわけでもない。


本を閉じた。

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