最低限の生活を得るために アメリカ
すると突然、
『ビョウイン』
と機械の声が響いた。
「うわっ!?」
リャンは思わずスマホを落としそうになった。
イーサンも飛び上がる。
「しゃ、しゃべった!?」
二人は数秒固まった。
やがて再び音声が流れる。
『ビョウイン』
今度は冷静に聞くことができた。
リャンは目を輝かせる。
「発音まで教えてくれるのか!」
イーサンも興奮気味にうなずいた。
「これなら文字だけじゃなく話し方も覚えられる!」
「教師いらずじゃないか!」
「いや、教師はいるだろ」
「でもかなり助かる!」
二人は次々に単語を入力し始めた。
『Library』
『Food』
『Water』
『Police』
『Train』
入力するたびに翻訳が表示され、発音まで聞くことができる。
イーサンは紙を取り出して必死にメモを始めた。
「病院、図書館、水、食料……」
「生活に必要な単語から覚えよう」
リャンも真剣な表情になる。
二人は巨人が眠っているそばで肩を並べながら、翻訳アプリを使って未知の言語を学び続けた。
イーサンは最後の単語を書き終えると鉛筆を置いた。
「ふぅ……」
紙にはびっしりと母国語と彼らの言語の
単語が並んでいる。
病院。
食料。
水。
図書館。
警察。
電車。
生活に必要そうな言葉はひと通りまとめ終わっていた。
イーサンは満足そうにうなずく。
「とりあえず必要な単語は書いたぞ。これである程度は大丈夫なはずだ」
リャンも地図やメモを眺めながらうなずいた。
「よく三時間も集中できたな」
「生き残るためだからな」
そう言うとイーサンは再びスマホを手に取った。
「ついでにある事を学ぼう」
「ある事とは?」
「この世界の情勢だ」
リャンは納得したように頷く。
「ああ、なるほど」
「どうして人が少ないのか?」
「どうして巨人たちがマスクをつけているのか?」
「確かに気になるな」
しかしすぐに首を傾げた。
「でもどうやって?」
イーサンは肩をすくめる。
「とりあえずまた探せばいいさ」
二人は翻訳アプリを閉じた。
ホーム画面へ戻る。
様々なアイコンが並んでいた。
「どれだろうか?」
イーサンがつぶやく。
するとリャンが画面の左上を指差した。
「これじゃね?」
そこには見覚えのないアイコンがあった。
イーサンは試しにタップする。
すると画面上部に楕円形の入力欄が表示された。
そこには英語で『Search』と書かれている。
「検索か」
「何でも調べられるのかな」
イーサンは慎重に文字を入力した。
『Recent World Situation』
数秒後。
大量の文字と画像が表示された。
二人は翻訳アプリを併用しながら内容を読み始める。
最初に飛び込んできた見出しを見た瞬間、二人は顔を見合わせた。
「パンデミック……?」
記事によると、新型ウイルスが世界中で流行しているらしい。
感染者数は二百万人を超え、多くの国が厳戒態勢を敷いていた。
「だからマスクをしていたのか」
リャンが納得する。
「病気を防ぐためだったんだな」
さらに別の記事を読む。
そこには『緊急事態宣言』という文字があった。
「これって何だ?」
「待て……」
イーサンは翻訳結果を確認する。
「不要な外出を控えろという命令みたいだ」
「事実上の都市封鎖だな」
リャンは周囲の静かな公園を思い出した。
「だから人が少なかったのか」
「納得だ」
さらに二人は地図アプリで現在地を詳しく確認した。
画面にはこう表示されている。
日本という島国で
その一つの九州という島で
福岡県という行政区分。
その一つの福岡市いう都市にいる事を。
そして――
大濠公園。
「ここが俺たちのいる場所か」
イーサンは地図を見ながら言った。
「島国らしいな」
「福岡市……大濠公園……覚えておこう」
しかし本当に二人を驚かせたのは、その後だった。
世界地図を開いた時である。
リャンが目を丸くした。
「待て」
「何か変だぞ」
イーサンも画面を見る。
そこには見慣れた大陸の形があった。
海岸線。
山脈。
大河。
どれも自分たちの世界と酷似している。
「そんな馬鹿な……」
イーサンの声が震えた。
「地形が同じだ」
リャンも唖然としていた。
「本当だ……」
二人は次々と地図を確認する。
そしてさらに衝撃を受けた。
「祖国はどこだ?」
イーサンは急いで北米大陸を指差した。
そこは自分たちの世界ではイストニア連邦が存在する場所だった。
しかし表示されている名前は違う。
「アメリカ……?」
「国名が違う」
「でも場所は同じだ」
リャンはしばらく言葉を失った。
「つまり……」
「俺たちの世界によく似た別の世界なのか?」
イーサンは静かにうなずく。
「その可能性が高いな」
「地形は同じ」
「歴史は違う」
「国名も違う」
「だが文明は俺たちより遥かに進んでいる」
二人は夜空を見上げた。
遠くの高層ビルの明かりが輝いている。
「俺たちは一体どこへ来てしまったんだろうな」
リャンがぽつりと言う。
イーサンはスマホを握りしめた。
「分からない」
「でも一つだけ確かなことがある」
「この世界についてもっと知らなければ、生き残れない」
二人は再び画面へ目を向けた。
未知の世界の情報を集めるために。
そんな時後ろではうーんと大きな声が鳴った。




