最低限の生活を得るために 無機物で
2020年4月20日
オオホリパーク
食料の心配はしばらく必要なかった。
鴨肉もまだ残っている。
保存していた野草もある。
そのため今日は狩りや採集ではなく、能力の法則を調べることにした。
「この小さくなる能力、どういう状態で使えるのか気になるな」
イーサンがそう言った。
「確かに将来のことを考えると大事なことだな」
リャンも同意する。
能力の仕組み次第では生活そのものが変わる。
食料の保存。
資材の運搬。
拠点づくり。
すべてに関わってくる。
今後の生活に大きく影響するため、法則は早いうちに知る必要があった。
二人は公園の周辺を歩いていた。
朝の公園は静かだった。
鳥の鳴き声が聞こえ、風が草を揺らしている。
その時だった。
目の前に一株のたんぽぽが見えた。
黄色い花を咲かせている。
「あっ」
足を止める。
「どうした?」
「この能力を最初に知ったきっかけがたんぽぽだったな」
あの時の出来事を思い出す。
ただし、あの時に触れたのは分解した後のたんぽぽだった。
しゃがみ込む。
「今回はそのままで試してみよう」
「なるほど」
たんぽぽの茎に手を当てる。
そして心の中で念じた。
(小さくなれ)
数秒待つ。
しかし――
何も起こらない。
風が吹いただけだった。
「やっぱり反応しないか」
もう一度試す。
だが結果は同じだった。
たんぽぽはそのままだ。
「おかしいな」
腕を組んで考え込む。
昨日の出来事が頭をよぎった。
猫。
そして鴨。
さらに今のたんぽぽ。
「何か分かったか?」
「少しな」
頭の中で状況を整理する。
昨日、猫には能力が効かなかった。
今日、たんぽぽにも効かなかった。
一方で死んだ鴨には能力が使えた。
分解したたんぽぽにも使えた。
「もしかすると……」
「何だ?」
「この能力、生きているものには反応しないんじゃないか?」
「生きているものには反応しない?」
「ああ」
地面に枝で簡単な図を書く。
生きている猫。
生きているたんぽぽ。
そして死んだ鴨。
分解されたたんぽぽ。
「今までの結果を並べるとこうなる」
図を見つめる。
「猫は反応しない」
一本線を引く。
「たんぽぽも反応しない」
さらに線を引く。
「でも死んだ鴨は反応した」
丸を付ける。
「分解したたんぽぽも反応した」
もう一つ丸を付けた。
ゆっくりとうなずく。
「確かに辻褄は合うな」
「もちろんまだ仮説だけどな」
「他にも条件があるかもしれないしな」
「ああ。でも今のところ一番可能性が高い」
二人はしばらくたんぽぽを見つめた。
風に揺れる花は何事もなかったかのように咲いている。
「次はどうする?」
少し考え込む。
「無機物で」
「無機物で?」
「今までは有機物でしかやってないじゃんちゃんと理解した方が安全だからな」
「それは賛成だ」
能力の謎はまだ多い。
だが少なくとも一つ、大きな手掛かりが見えてきた気がしていた。
二人は次の実験方法を考えながら、公園内を歩き始めた。
すると巨大な空き缶があった。
「これって」
「早速試してみよう」
イーサンは空き缶に手を当てた。
そして心の中で念じる。
(小さくなれ)
次の瞬間、空き缶は音もなく縮んでいく。
カンッ、と軽い金属音が響いた。
「おお、これは上手くいったな」
「そうだな」
小さくなった空き缶を手に取る。
掌に収まるほどのサイズになっている。
「なるほど、面白いな」
缶の表面を観察する。
見慣れないロゴ、プルトップの構造。
イーサンの世界にはない形状だった。
「なんだこれ」
「匂い的にはコーヒーっぽいな」
ほんのわずかに振ると、中身の残り音がする。
「とりあえず元の大きさに戻してみてよ」
「確かにな」
空き缶に再び手を当てる。
(大きくなれ)
すると空き缶は元のサイズへと戻った。
カンッ!
重い金属音が周囲に響く。
「おお……」
2人は顔を見合わせる。
「なるほどな」
「どういうことだ?」
「少なくとも、無機物には問題なく効くってことだ」
「生きているものだけダメってことか」
イーサンは少し考えるように空き缶を見つめた。
「いや……まだ断定はできない」
「どういう意味だ?」
「今のは“無機物は確実に効く”ってだけだ」
空き缶を指で軽く弾く。
「問題は生きているものだけじゃなくて、“状態”かもしれない」
「状態?」
「ああ。生きてる・死んでるだけじゃなくて、構造とか分解とか……そういう条件かもしれない」
「ややこしいな」
「だからこそ調べる価値がある」
二人は空き缶をしばらく見つめた。
静かな公園の中で、それだけが不自然な存在感を放っている。
「これ、他にも試してみるか?」
「当然だ」
イーサンは空き缶を持ち直した。
「この能力、思ったよりずっと複雑だ」
「でも分かってきたらかなり使えるな」
「戦いにも、生活にもな」
二人は次の実験対象を探しながら、公園の奥へと歩き出した。
その先には、まだ知らない“条件”がいくつも隠れている気がしていた。




