最低限の生活を得るために 余計にうまく感じる
とりあえず鴨を解体する為に木の洞の拠点に戻る事にした。
イーサン「今日は本当に散々だったな……」
リャン「猫に襲われたのは予想外だった」
イーサンは苦笑しながら肩に担いだカモを見た。
イーサン「でも食料は確保できた」
リャン「数日は食べていけるな」
2人は警戒しながら森の中を進んだ。
途中で何度も猫の姿がないか確認したが、幸い再び遭遇することはなかった。
やがて大木の根元にある洞へ到着した。
そこが2人の拠点だった。
リャン「やっと着いた」
イーサン「まずは食事の準備だな」
洞の中に入ると、イーサンはカモを地面に置いた。
2人にとっては大きな獲物だ。
リャンは以前集めていた平たい石を作業台代わりに運んでくる。
リャン「ここで作業しよう」
イーサン「よし」
イーサンはナイフを取り出した。
まず羽根を取り除きやすいように体を固定する。
羽根は後で寝床の材料として利用できるかもしれない。
リャン「捨てるのはもったいないな」
イーサン「そうだな」
2人は使えそうなものと食料になる部分を分けながら作業を進めた。
洞の中には羽根が少しずつ積み上がっていく。
しばらくすると――
リャン「思ったより時間がかかるな」
イーサン「獲るのも大変だけど、食べる準備も大変だな」
2人の額には汗が浮かんでいた。
しかし苦労の分だけ達成感もある。
ようやく作業が一段落すると、食べられる部分を石の上に並べた。
一部は今日のご飯で残りは日干しにする予定だ。
リャン「これだけあればしばらく安心だな」
イーサン「あの猫に食われなくて本当に良かったよ」
リャン「それは同感だ」
2人は思わず笑った。
だがイーサンの頭の中には別のことが残っていた。
猫に使えなかった能力のことだ。
イーサン(やっぱり気になるな……)
リャン「まだ考えているのか?」
イーサン「ああ」
リャン「能力のことだな」
イーサンはうなずいた。
イーサン「条件を確かめないといけない」
リャン「でも今日は休もう」
イーサン「そうだな」
外では夕暮れが近付いていた。
洞の入口から差し込む光が少しずつ赤くなっていく。
食料も確保できた。
命も助かった。
少なくとも今日だけは生き延びることができたのだった。
今日のご飯は鴨の肉と以前採取したたんぽぽの野菜炒めだ。
洞の中では小さな焚き火が静かに燃えていた。
イーサンは干して保存していたたんぽぽを取り出す。
たんぽぽは日干しにしていたので、すっかり干からびていた。
「まずは戻さないとな」
木の実の殻で作った器に水を入れ、その中へたんぽぽを浸す。
しばらくすると、縮れていた葉が少しずつ柔らかくなっていった。
リャンはその間に料理の準備を始める。
リャンは小さくして保存していた鴨肉を受け取った。
小さなフライパンを焚き火の上に置き、温まるのを待つ。
「そろそろだな」
フライパンが温まると、小さくなったままの鴨肉を入れた。
ジュウゥゥ――
香ばしい音が響く。
続いて水で戻したたんぽぽを加える。
ジュッ――
白い湯気が立ち上った。
リャンは手際よく炒め始める。
鴨肉から出た脂がたんぽぽに絡み、食欲をそそる香りが広がっていく。
イーサンの腹が小さく鳴った。
「もう少し待て」
「早く食べたいんだけどな」
リャンは笑いながらフライパンを振る。
やがて全体に火が通り、こんがりとした焼き色が付いた。
「よし、完成だ」
リャンがフライパンを火から下ろす。
イーサンは出来上がった料理にそっと手を触れた。
能力を使う。
すると小さかった鴨肉とたんぽぽ炒めがゆっくりと元の大きさへ戻っていった。
「毎回見ても不思議な能力だな」
「俺もまだ全部は分かってないけどな」
平たい石の皿に料理を盛り付ける。
鴨肉はこんがりと焼け、たんぽぽも程よくしんなりしている。
「なかなかうまそうだろ」
「ああ、最高だ」
2人は皿を囲んだ。
イーサン「いただきます」
リャン「いただきます」
鴨肉を一口食べる。
香ばしい風味と旨味が口いっぱいに広がった。
リャン「どうだ?」
イーサン「うまい。かなりうまい」
リャンも一口食べて満足そうにうなずく。
リャン「成功だな」
イーサン「猫に襲われた後の飯だから余計にうまく感じる」
リャン「それはあるな」
2人は思わず笑った。
洞の外では夕日が沈み、森はゆっくりと夜に包まれていく。
危険な一日だったが、温かい食事と仲間の存在のおかげで、今は穏やかな時間が流れていた。
食事を終える頃には、焚き火の火も小さくなり始めていた。
満腹になった2人は石壁にもたれかかる。
それでも今夜だけは何も考えず、静かな夜を過ごせそうだった。




