知った能力 小さくして持って行けたら楽なんだけどな
とりあえず二人は、まず一株のたんぽぽを採取することに決めた。
「まずはこれを持ち帰るか」
イーサンが腰のナイフを抜く。
リャンは目の前のたんぽぽを見上げた。
「改めて見るとでかいな……」
小人である彼らにとって、たんぽぽはもはや雑草ではなかった。
一本の木にも等しい大きさだ。
茎は自分たちの胴体ほどの太さがあり、真っ直ぐ空へ向かって伸びている。
イーサンは茎の根元に刃を当てた。
「それじゃ、やるぞ」
「おう」
ギコッ。
ナイフが茎に食い込む。
しかし一度では切れない。
何度も刃を動かしながら少しずつ削っていく。
まるで木こりが木を伐採しているようだった。
「これ、本当に草なんだよな?」
リャンが苦笑する。
「私たちのサイズだと木と変わらないな」
イーサンも汗を拭いながら答えた。
数分後。
パキッ――
鈍い音と共に茎が傾く。
「倒れるぞ!」
イーサンが叫ぶ。
二人は慌てて離れた。
次の瞬間、
ドサッ!
たんぽぽが草むらの上へ倒れ込んだ。
周囲の草が揺れ、小さな振動が足元に伝わる。
リャンは思わず歓声を上げた。
「おお! 良い感じになったな!」
「思った以上に大仕事だったな……」
イーサンは肩で息をしながら倒れたたんぽぽへ近づいた。
近くで見るとさらに大きい。
もはやたんぽぽというより、伐採された若木にしか見えなかった。
茎は丸太のように横たわり、葉は大きな布のように地面へ広がっている。
そして花。
「でかいな……」
イーサンは思わず呟いた。
黄色い花は、自分の顔とほぼ同じ大きさだった。
近づいて見ると無数の花びらが集まってできているのがよく分かる。
普段なら気にも留めない植物だが、こうして見るとまるで別の生き物のようだった。
リャンも花の横に並ぶ。
「俺たちが小さいのか、こいつが大きいのか分からなくなるな」
「間違いなく前者だな」
イーサンは苦笑した。
「でもこれだけあれば数日は食料になるかもしれない」
「確かに」
リャンは頷く。
「葉も使えるし、無駄になる部分は少なそうだ」
「よし、運べる分だけ切り分けよう」
イーサンは再びナイフを握った。
倒れたたんぽぽは、二人にとってまるで収穫した大木のように見えていた。
こうして二人は、初めての本格的な食料採集を始めるのだった。
その後、二人はたんぽぽの茎や葉を一本ずつ切り分けていった。
葉は運びやすい大きさに切り、茎も小分けにして束ねる。
単純な作業だったが、小人である彼らにとっては重労働だった。
ナイフを振るい続けた結果、二人ともすっかり疲れ切ってしまう。
「いやー、疲れた……」
リャンはその場に腰を下ろした。
近くに転がっていた小石が、彼らにとってはちょうど良い椅子代わりになる。
「確かに」
イーサンも隣の石へ座り込んだ。
額には汗が浮かんでいる。
二人の目の前には、分解されたたんぽぽの山が積まれていた。
葉、茎。
しばらくは食料に困らないだけの量がある。
「収穫としては上出来だな」
リャンが満足そうに言う。
「ああ。問題は運搬だけどな」
イーサンは苦笑した。
切り分けたとはいえ、彼らにとっては依然として巨大な荷物だ。
しばらく休憩した後、イーサンは立ち上がった。
「じゃあ持って行こうぜ」
「そうだな」
リャンも立ち上がる。
二人は荷物へ近づいた。
その時だった。
イーサンはふと考える。
(もしこれが小さくして持って行けたら楽なんだけどな……)
そんな都合の良いことが起きるはずもない。
そう思いながら何気なく茎へ手を伸ばした。
次の瞬間――
しゅるるー
まるで空気が抜けるような小さな音がした。
「え?」
イーサンの目の前から巨大な茎が消えた。
「なっ!?」
リャンも思わず飛び上がる。
二人は反射的に後ろへ下がった。
周囲を慌てて見回す。
敵か。
何かの生物か。
それともこの世界特有の現象なのか。
「い、一体何が起こったんだ?」
リャンの声が震える。
イーサンも答えられない。
消えた茎の行方を探して視線を動かす。
すると――
「あれ……?」
イーサンが地面を指差した。
二人の足元。
そこに見覚えのある茎が転がっていた。
だが大きさがおかしい。
普段、自分たちが扱う物と同じくらいのサイズになっていた。
イーサンは恐る恐る拾い上げる。
手触り。
切断面。
傷の位置。
どれも先ほど自分たちが切り分けた茎そのものだった。
「間違いない……」
イーサンは呟く。
「これ、さっき採取した茎だ」
「嘘だろ?」
リャンが目を丸くする。
「つまり……」
「小さくなった」
二人は顔を見合わせた。
数秒間、誰も何も言えなかった。
あまりにも現実離れした出来事だったからだ。
リャンはゆっくりとイーサンの肩へ手を置く。
そして真剣な表情で尋ねた。
「イーサン……」
「なんだ?」
「一体どういう魔法を使ったんだ?」
「いや、使ってない!」
イーサンは即座に否定した。
「私だって何が起きたのか分からない!」
「本当に?」
「本当だ!」
二人は再び小さくなった茎を見つめる。
そこには紛れもなく、自分たちが苦労して切り分けたたんぽぽの茎があった。
だが大きさだけが明らかに違う。
常識では説明できない現象。
その事実に、二人は驚きと戸惑いを隠せずにいた。




