知った能力 生きるための食料
2020年4月15日
オオホリパーク周辺
あれから四日。
イーサンとリャンは、まだ公園周辺を彷徨っていた。
しかし、これといった空き家は見つからない。候補になりそうな建物はいくつかあったが、どれも条件に合わなかった。
「どうしようかな……」
イーサンは足を止め、公園の看板を模写した手書きの地図とコンパスを見比べた。
周囲には無数の建物が並んでいる。だが、彼らのような小人が安全に暮らせる場所となると話は別だった。
「建物自体はたくさんあるんだけどな……」
イーサンは小さくため息をつく。
現在の拠点探しの条件は二つ。
一つ目は、人や猫が近づきにくいこと。
二つ目は、草が多いこと。
一つ目は当然だった。彼らにとって安全は何よりも重要だ。
二つ目にも理由がある。
草丈が高ければ身体を隠せるし、朝になれば葉に付いた露を飲み水として利用できる。
実際、この四日間はその方法で水を確保していた。
「現実はなかなかうまくいかないな」
リャンが草むらの陰から顔を出しながら言った。
「確かにな」
イーサンも苦笑する。
するとリャンが少し真面目な表情になった。
「それと別に問題も発生した」
「分かっている。食料の方だろ?」
「そうだ」
リャンは頷いた。
この世界に来てからというもの、二人の食事は缶詰頼りだった。
今のところ量には余裕がある。
だが、この状況がいつまで続くか分からない以上、むやみに消費するわけにもいかなかった。
「だからさ」
リャンは腕を組む。
「一旦拠点探しは置いておいて、まずは食料の確保を優先しないか?」
イーサンは少し考えた後、頷いた。
「確かに、それがいいな」
「正直な話」
リャンは頭を掻きながら苦笑した。
「今になって少し後悔してる。あの時、あの食パンを持って行けばよかったなって」
「ああ……」
イーサンも思わず苦笑する。
「私も一瞬は考えたさ。でも、あんな大きな物を運ぶのは物理的に無理だろう」
「それもそうだな」
「それに、運んでいる最中に巨人に見つかる危険もあった」
「うーん……確かに」
リャンは納得したように頷いた。
どちらにせよ、今さら言っても仕方がない。
二人は気持ちを切り替えることにした。
まずは生きるための食料だ。
拠点探しはその後でも遅くない。
「よし、行くか」
イーサンが地図を丸める。
「おう。今日は何か見つかるといいな」
そう言って二人は再び歩き始めた。
そして二人は一旦オオホリパークへ戻った。
向かった先は、人の気配がほとんどない草むらだった。
周囲には春の草が生い茂り、小人である彼らの姿は簡単に隠れてしまう。
イーサンは背負っていた荷物を下ろした。
「それじゃ、やりますか」
リャンも周囲を見回しながら頷く。
「食べられる草があると良いな」
まずは山菜探しだ。
もし今日の日付が自分たちの世界と同じ暦なら、今の時期は何かしら食べられる植物が見つかるはずだった。
もっとも問題もある。
この世界の植物が、自分たちの世界と同じとは限らないのだ。
「まあ、全部違うってことはないだろ」
イーサンは草をかき分けながら言った。
「だな。同じ種類の植物もどこかにはあるはずだ」
二人は慎重に周囲を調べ始めた。
見知らぬ草ばかりが目に入る。
食べられるのかも分からない。
毒がある可能性もある。
そのため知っている植物だけを探していた。
十分ほど歩いただろうか。
突然、リャンが声を上げた。
「あっ!」
「どうした?」
イーサンが振り返る。
リャンは興奮した様子で地面を指差した。
「これ見ろ!」
そこには鮮やかな黄色い花が咲いていた。
ギザギザの葉。
地面に張り付くように伸びる姿。
見覚えがある。
「たんぽぽだ!」
イーサンの表情が明るくなる。
「間違いない。たんぽぽだ!」
二人は駆け寄った。
小人の彼らからすると、一本のたんぽぽでも立派な木のような大きさだった。
「葉もあるし根もあるな」
「よかった……少なくとも植物は結構共通してるみたいだ」
リャンは安堵したように笑った。
さらに周囲を探していると、今度はイーサンが立ち止まる。
「リャン、こっち来てくれ」
「何かあったか?」
イーサンの足元には、地面に貼り付くように広がる葉が群生していた。
葉脈がはっきりしていて、細長い葉が放射状に伸びている。
リャンは目を見開いた。
「オオバコじゃないか!」
「やっぱりそうだよな?」
「ああ、間違いない」
二人は思わず顔を見合わせた。
たんぽぽに続いてオオバコまで見つかった。
これで完全に希望が見えてきた。
「食べられる植物が存在するのは確定だな」
イーサンが言う。
「しかも知ってる種類だ」
リャンも嬉しそうに頷いた。
「今日は収穫だな」
「まだ時間はある。もっと探そう」
二人は見つけた場所を地図に記録すると、さらに草むらの奥へと進んでいった。
先ほどまでの不安は少し薄れていた。
少なくとも、この世界にも彼らが知る植物は存在している。
それが分かっただけでも大きな前進だった。




