知った能力 半日以上は経っていた。
彼はこのまま死ぬか、重傷を負うものだと思っていた。
だが――
地面に叩きつけられた瞬間、全身に衝撃と痛みは走ったものの、予想していたような致命的な損傷はなかった。
「うっ……」
イーサンはゆっくりと身を起こす。
腕や足を動かしてみるが、擦り傷や打撲らしき痛みはあるものの、骨が折れた様子はない。
「これはどうなっているんだ?」
彼は驚きながら自分の体を見回した。
(確かに落ちたはずだ。あの高さから……)
何度考えても理解できない。
本来なら即死していてもおかしくない高さだった。
だが、当然ながらイーサンは知らなかった。
小さな生き物ほど体重に対して空気抵抗の影響が大きくなり、落下速度が抑えられることを。
そのため高所から落ちても、体の大きな生物に比べれば深刻なダメージを受けにくいのである。
もっとも、そんな理屈を知る由もないイーサンは、
(とりあえず……助かったんだな)
そう結論付けるしかなかった。
その時だった。
「おい! 大丈夫か?」
聞き慣れた声が上から響く。
見上げると、リャンが塀を降りてくるところだった。
塀の表面に走る細い亀裂や、コンクリートの継ぎ目がわずかに欠けた部分を器用に利用しながら、慎重に降下してくる。
やがて地面に着地したリャンは、すぐに駆け寄った。
「ああ、大丈夫だ。傷はあるが致命傷ではない」
イーサンが答えると、リャンは目を丸くした。
「いや、凄いな。あんな高さから落下したのに無事なんて」
「私も驚いているよ」
イーサンは苦笑しながら立ち上がった。
二人は周囲を見渡す。
すると東の空がわずかに白み始めていた。
夜の終わりを告げるように、空が少しずつ明るくなっていく。
「もう朝か」
リャンが空を見上げながら呟く。
イーサンも同じ方向を見た。
「でも巨人の家で寝たから眠くならないな」
「そうだな」
二人は顔を見合わせて小さく笑った。
その時、近くで何かを噛みちぎる音が聞こえた。
視線を向けると、そこには彼らの馬がいた。
地面に生えた草を夢中になって食べている。
いや、彼らの大きさからすれば「草を食べている」というより、「巨大な植物を齧っている」と表現した方が正しいかもしれない。
それを見た瞬間、リャンの表情が変わった。
「あっ、やべっ! 忘れてた!」
「しまった!」
二人は慌てて馬のもとへ駆け寄る。
イーサンは馬の首を優しく撫でた。
「ごめんな、待たせてしまって」
気付けば置いてから半日以上は経っていた。
それでも馬は不満を言うことなく、のんびりと草を食べ続けている。
リャンは荷物を確認しながら言った。
「じゃあ行きますか」
イーサンは頷く。
「そうだな」
二人は馬を引き連れ、新たな拠点を探すため歩き始めた。
見上げれば、朝日に照らされた巨大な建物群がそびえ立っている。
彼らにとって都市とは、ただの街ではない。
無数の危険と発見が眠る巨大なジャングルだった。
こうして――
2020年4月11日。
イーサンとリャンの二人は、新たな居場所を求めて巨大都市の中へと消えていった。




