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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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3/22

イーサン ついにこの時が

1912年7月とある荒野


「一人、近づいたぞ……頼んだ」


 手綱を握ったまま、イーサンが低く言った。

 乾いた風が荒野を吹き抜け、馬車の車輪が砂を巻き上げる。


 隣で葉巻を噛んでいたリャンが、不敵に口角を上げた。


「任せな」


 リャンはライフルを肩に当てる。

 揺れる馬車の上とは思えないほど静かな動作だった。


 ――バンッ!!


 乾いた銃声が荒野に響く。


 先頭を走っていた盗賊の一人が胸を押さえ、そのまま馬から転げ落ちた。


「よし、ヒットだ!」


 リャンが笑う。


「いいぞ、そのままだ!」


 イーサンは叫びながら、片手で器用に手綱を操った。

 もう片方の手には、使い込まれたポンプアクション散弾銃。


イーサンはある能力発動させたすると周りが灰色になり予想される動きが幽霊の様に浮かび上がった。


そして迫る盗賊へ向け、引き金を引く。


 ――ドォン!!


 散弾が広がり、一人の盗賊が吹き飛ぶ。


 さらにもう一発。


 ――ドンッ!!


 今度は馬が悲鳴を上げて倒れ、乗っていた男も地面へ叩きつけられた。


「ガキどもが……!」


 怒鳴り声が飛ぶ。


 イーサンは素早く薬莢を排出し、装填しようとした。

 その瞬間――


 ――バン!!


 一発の銃弾が、彼の頬のすぐ横をかすめた。


「っ!」


 あまりの近さに、イーサンの身体が跳ねる。

 手から散弾銃が滑り落ち、馬車の床へ転がった。


「まずい……!」


 盗賊が勝ち誇ったように叫ぶ。


「これで終わりだ、小僧!」


 男が銃口を向けた、その時だった。


 イーサンの目が鋭く細まる。


 彼は腰のホルスターへ手を伸ばした。


「まだだ!」


 抜き放たれた拳銃が火を吹く。


 ――バン! バン! バン!!


 三連続の銃声。


 一発は馬へ。

 一発は盗賊の肩へ。

 最後の一発が男の胸を撃ち抜いた。


 盗賊は勢いよく馬から転げ落ち、砂煙の中へ消える。


 リャンが目を丸くした。


「おお……ついにそっちを撃ったか」


「仕方ないだろ!」


 イーサンは荒く息を吐きながら答える。


「……とにかく、このまま進むぞ!」


 彼は散弾銃を拾い上げ、再び手綱を強く握った。


 馬車は砂煙を巻き上げながら、荒野を一直線に駆け抜けていく。


 背後には、倒れた盗賊たちと、静かに消えていく銃声だけが残っていた。


夕焼けが荒野の地平線を赤く染めていた頃、馬車はようやく街の門をくぐった。


石造りの門兵が一瞬こちらを見たが、荷台の様子と二人の姿を確認すると、特に詮索することもなく視線を逸らす。


ようやく――安全圏だ。


馬車を停めると、緊張の糸が切れたように静けさが落ちた。



イーサンは馬の手綱を結びながら肩をすくめる。


「まあ、想定の範囲内だよ」


砂まみれの顔にうっすらと疲れが滲む。

それでも声は落ち着いていた。


「命があるだけマシ、ってやつか」


「そういうこと」


イーサンは短く答え、拳銃のホルスターを軽く叩いた。


一拍置いて、彼は空を見上げる。


街の上には、もう戦場の空気はない。

ただ人のざわめきと、遠くで鳴る鐘の音だけがあった。


イーサンは小さく息を吐く。


「まあなんとかなったよ」


その言葉には、無理に強がるでもなく、ただ事実だけを受け止めた響きがあった。


リャンはそれを聞いて、鼻で笑う。


「次もそう言えればいいがな」


「できれば平和に頼むよ」


夕焼けはやがて街の屋根に沈み、二人の影を長く引き伸ばしていった。


その後宿場の一室は、夜になると急に静かになった。

外ではまだ酒場の笑い声や馬のいななきが聞こえているのに、この部屋だけは別世界のように落ち着いている。


小さな机の上で、ランプの火が揺れていた。

イーサンはそこに向かい、紙とペンを広げている。


紙の上には、整った文字が少しずつ積み上がっていく。

戦いの記録でも、運搬の帳簿でもない――物語だった。


背後で寝床に腰を下ろしていたリョンが、ふとその手元を覗き込んだ。


「……小説?」


イーサンは手を止めずに、淡々と答える。


「まあ、そうだな」


ペン先が紙を走る音だけが、しばらく部屋に残った。


リャンは少しだけ苦笑する。


「色々趣味があっていい事だ」


その言葉には冗談の色はなかった。

この国では、見えない線が確かに引かれている。


東方の島国が大陸の大国に勝利したことをきっかけに広がったとされる思想。


一部の人がアジア系は「危険」とされ、教育も仕事も、制限をするべき主張する人が出てくる様になった。


リャンは窓の外を見ながら、低く続けた。


「このままだと隔離政策とか始まりそうだ。」


イーサンは一度だけペンを置き、小さく息を吐いた。


「だからこそだ」


視線は紙の上に戻る。


「俺は小説を書いて、金を得てる」


それは単なる趣味ではない。

生きるための手段だった。


イーサンはそこそこ名の知られた作家でもあった。


リャンは少し驚いたように目を細める。


「真面目な事だな」


イーサンは苦笑ともため息ともつかない表情を浮かべた。


「アウラさんはこう言った。」


ペンを軽く回しながら、静かに続ける。


「差別には、お金で対抗するんだってな」


一瞬、リャンは黙った。

そして小さく肩をすくめる。


「……勉強になります」


そう言うと、布団に体を倒した。


「じゃあ俺は寝るわ」


「おう」


イーサンは短く返し、再び紙に視線を落とす。


ランプの光の中で、文字だけが静かに増えていく。


小説を書き終わると今度は日記を書いた。

こうして一日が終わる。


それが、彼らの当たり前の日常だった。

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