知った能力 慣れない
突然、部屋の外から足音が聞こえた。
ドン……ドン……。
床がわずかに震える。
二人の表情が一気に強張った。
イーサンは反射的に立ち上がる。
「……っ、誰か来る!」
リャンもすぐに周囲を見回した。
巨大な足音はどんどん近づいてくる。
まるで大型の獣が迫ってくるような圧迫感だった。
イーサンが小声で尋ねる。
「どうしようか?」
リャンは一瞬だけ考え、すぐにベッドの端を指差した。
「端に寄ろう。真ん中は危険だ」
「了解」
二人は急いで柔らかな枕の上を駆け、ベッドの端へ身を伏せた。
次の瞬間――。
ガチャッ。
部屋の扉が開く。
現れたのは、一人の若い女性だった。
赤茶色のショートヘア。
少し乱れた服装。
仕事帰りなのか、疲れ切った様子で肩を落としている。
彼女は重たい足取りで部屋へ入ってくると、大きく息を吐いた。
「ああ……疲れた……」
その声だけでも、二人には十分すぎるほど大きかった。
女性はそのままベッドへ身体を預ける。
ドスッ――という衝撃が伝わり、ベッド全体が大きく揺れた。
「うわっ……!」
「静かに!」
二人は慌ててシーツへしがみつく。
女性はそんなことなど気づく様子もなく、ぼんやりと部屋を見回した。
すると、まだテレビが光っているのに気づく。
「あれっ、テレビつけっぱなしにしてたっけ?」
彼女はリモコンを手に取ると、画面を消した。
部屋が急に静かになる。
続いて彼女は窓の方へ視線を向けた。
開いたままの窓を見て、表情を変える。
「あっ、しまった。窓開けっ放しだった……」
女性は少し慌てた様子で立ち上がった。
「何か盗まれてないかな……?」
その言葉に、ベッドの端に隠れていた二人は硬直する。
イーサンが小声で呟いた。
「……完全に俺たちのことじゃないか?」
「黙ってろ」
女性は部屋の中を軽く探し始めた。
机の上。
棚。
時折こちらへ近づくたび、二人は息を止める。
巨大な人間に見つかればどうなるか分からない。
リャンは小さく汗を流した。
「……頼むからこっち来るなよ」
幸い、女性はベッドまでは確認しなかった。
しばらく探した後、彼女はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「……何も盗まれてる様子はないね。危なかった」
その言葉に、二人も内心で安堵する。
まさか、自分の部屋に、小人が二人も侵入しているとは、彼女は夢にも思っていなかった。
その後、女性は髪を軽くかき上げると、キッチンの方へ向かった。
ガチャガチャと食器の音が響き始める。
リャンはそっと顔を上げた。
「……飯の準備してるみたいだな」
イーサンは目を輝かせる。
「つまり、食料が手に入る可能性があるってことか?」
「お前、その発想しかないのかよ……」
しかし次の瞬間。
キッチンの方から漂ってきた香ばしい匂いに、二人の腹が同時に鳴った。
ぐぅぅ……。
二人は顔を見合わせる。
そして、無言で頷いた。
キッチンの方からは、油の弾ける音が聞こえていた。
ジュウゥゥ――。
それだけで二人の腹はさらに刺激される。
イーサンはベッドの端から顔を出し、匂いのする方向を見た。
「……やばい、腹減ってきた」
「さっき鳴ってただろ」
「お前もだろ」
リャンは小さく咳払いして誤魔化す。
ご飯は朝しか食べていない
しかも漂ってくる香りは強烈だった。
肉を焼く匂い。
スープのような湯気。
何か甘い香りまで混ざっている。
イーサンは真剣な顔になる。
「偵察だけしてみるか?」
「見つかったら終わりだぞ」
「でも腹は減る」
「……それは否定できねえ」
二人は顔を見合わせ、慎重にベッドから降り始めた。
シーツをロープ代わりにしながら端を滑り降りる。
途中でイーサンが足を滑らせた。
「うおっ!?」
「静かにしろ馬鹿!」
リャンが慌てて腕を掴む。
そのまま二人は床へ着地した。
巨大なフローリングの床は、まるで広場のように広い。
キッチンの灯りが遠くから漏れている。
二人は物陰を伝いながら進んだ。
椅子の脚。
棚の影。
落ちていた雑誌。
小人の彼らにとっては、全てが身を隠せる巨大な障害物だった。
やがてキッチンへ辿り着く。
そこでは女性がフライパンを振っていた。
赤茶色の髪を後ろで軽く結び、疲れた様子のまま料理をしている。
フライパンの中では肉と野菜が炒められていた。
リャンは思わず呟く。
「……でかいな」
女性は鼻歌混じりに料理を続けている。
どうやらこちらには全く気づいていない。
二人は冷蔵庫の陰に隠れながら様子を窺った。
その時だった。
女性が突然こちらへ歩いてくる。
ドン……ドン……。
巨大な足音。
リャンは目を見開いた。
「来るぞ!」
二人は慌てて冷蔵庫の影へ身体を押し付けた。
女性はすぐ近くまで来ると、棚からコップを取り出す。
その動作だけで風が巻き起こり、二人の髪が揺れた。
「うわっ……!」
イーサンは小声で呻く。
何回か体験しているはずだが
なかなか慣れない。
女性の足音。
服の擦れる音。
髪の揺れる匂い。
その全てが圧倒的なスケールだった。
リャンは息を殺したまま呟く。
「……本当に別の生き物みたいだな」




