知った能力 興奮する
テレビの眩しい光から離れた後、リャンは部屋の奥にある巨大なベッドを見上げた。
白い布が綺麗に広がり、まるで雪原のようにも見える。
リャンは顎でそちらを指した。
「折角だし、他のところにも行ってみようぜ」
イーサンも視線を向け、小さく笑う。
「そうだな。あれ、前から気になってた」
二人は助走をつけ、ベッドの側面へ飛びついた。
柔らかなシーツに身体が沈み込む。
「うおっ!?」
「わっ、柔らかっ……!」
着地した瞬間、足元がふわりと沈み、二人は思わず体勢を崩した。
まるで草原ではなく雲の上に立っているような感覚だった。
リャンは足で何度かシーツを踏みながら感心する。
「すげえなこれ……地面じゃねえみたいだ」
二人はそのままベッドの上を歩き回る。
柔らかな布が波打ち、歩くたびに身体が上下した。
シーツは綺麗に整えられており、埃もほとんどない。
リャンは周囲を見回す。
「ちゃんと洗濯してるんだな。思ったより綺麗だ」
「もっと散らかってると思ってた」
やがて二人は巨大な枕へ辿り着いた。
白い壁のように盛り上がった枕へよじ登ると、ふわりと甘い香りが漂ってくる。
イーサンが鼻をひくつかせた。
「……なんか良い匂いするな」
「香水か? それとも髪につけるやつか?」
リャンは枕へ顔を近づけながら呟く。
ほんのり甘く、それでいて落ち着く香りだった。
巨大な人間が普段ここで眠っているのだと考えると、不思議な感覚になる。
その時――。
リャンが突然、勢いよく枕へ飛び込んだ。
「うおっ!」
身体が深く沈み込み、ふわりと包み込まれる。
リャンはそのまま大の字になると、笑いながら言った。
「……いや、なんか興奮するなこれ」
「子供かお前は」
呆れながらも、イーサンも同じように飛び込む。
枕は想像以上に柔らかく、全身がゆっくり沈み込んだ。
「……あー、駄目だこれ」
イーサンは天井を見上げながら力の抜けた声を出す。
「なんかここで眠りたくなるな」
「分かる……」
二人は並んで寝転びながら、しばらく巨大な天井を見上げていた。
静かな部屋。
柔らかな枕。
遠くではテレビの音が小さく響いている。
危険な世界に迷い込んだはずなのに、その瞬間だけは妙に落ち着いていた。
その後、あまりにも心地よかったのか、イーサンの意識はゆっくりと遠のいていった。
柔らかな感触に身体を預けたまま、瞼が重くなる。
「……少しだけ……」
そう呟いたのを最後に、完全に眠りへ落ちた。
――そして。
再び目を覚ました時には、部屋の中はオレンジ色の夕陽に染まっていた。
カーテンの隙間から差し込む光が、ベッドや棚を長く照らしている。
「……ん……?」
イーサンはゆっくり身体を起こした。
どうやらかなり長い時間眠っていたらしい。
ぼんやりした頭で周囲を見回すと、隣ではリャンが気持ちよさそうに寝息を立てていた。
両手を投げ出し、完全に無防備な姿だ。
イーサンは苦笑しながら近づき、小さく肩を叩いた。
「おい、リャン。起きろ」
ぺしぺし、と軽く叩く。
リャンは眉を動かしながら、もぞもぞと身体を揺らした。
「……ムニャ……あれっ……今は……?」
寝ぼけた声を漏らしながら目を開ける。
イーサンは窓の方を顎で示した。
「ああ、もう夕方だ」
「えぇっ!?」
リャンは飛び起きかけ、そのままベッドの柔らかさに足を取られて転がった。
「うおっ!」
「何やってんだよ」
イーサンは呆れたように笑う。
リャンは頭を掻きながら照れ臭そうに笑った。
「いやぁ……あまりの気持ちよさに寝てしまった」
「確かにな」
イーサンも同意するように頷いた。
「あの枕も反則だろ」
「わかる。沈み込む感じがやばかった」
「しかも妙にいい匂いしたしな」
「それ!」
二人は顔を見合わせると、堪えきれずに笑い出した。
小さな笑い声が、静かな部屋に響く。
しばらくして、リャンがふとテレビの方を見た。
「ん?」
画面には先ほどとは違う映像が映し出されていた。
色鮮やかな料理や、湯気を立てる鍋。
人影が何かを説明しているようだが、言葉は相変わらず理解できない。
イーサンは腕を組みながら画面を眺めた。
「内容はわからないけど……料理番組っぽいな」
リャンは目を輝かせた。
「おぉ……なんか美味そうだな」
画面に映る肉料理へ、じっと視線を向ける。
「ちょっと興味あるな……」
まるで吸い寄せられるようにテレビへ近づき、そのまま釘付けになる。
一方イーサンは、部屋の中を見回しながら考えていた。
(これからどうするかだな……)
食料の確保。
外の探索。
そして、自分達が置かれている状況。
考えることは山ほどあった。
その時だった。
――ガチャッ。
突然、部屋の外から音が響いた。
二人の動きが止まる。
「……っ!」
リャンが反射的にテレビの陰へ身を隠す。
イーサンも即座に立ち上がり、ベッドの端へ移動した。
廊下側から、微かに足音が近づいてくる。
コツ、コツ、と一定のリズム。
リャンが小声で囁いた。
「……誰か来るぞ」
イーサンは息を潜めながら、静かに頷いた。




