生存計画 全然違う
巨大な入口へ近づくにつれ、周囲の景色はさらに人工的になっていった。
地面は硬い石で覆われ、草の匂いよりも乾いたコンクリートの臭いが強くなる。
足音まで変わった。
土を踏む柔らかい感触はなく、靴底へ硬い振動が返ってくる。
リャンは周囲を見回しながら呟いた。
「公園の中とは全然違うな……」
「ああ。いよいよ巨人達の縄張りって感じだ」
イーサンも警戒した様子で周囲を見渡す。
人工物ばかりの景色。
真っ直ぐ伸びた道。
巨大な標識。
どれも彼らの知る世界とは異質だった。
その時だった。
――ドン……。
地面が小さく震える。
同時に、風を裂くような低い音が遠くから響いてきた。
ゴォォォォ……。
リャンが反射的に顔を上げる。
「なんだこれは」
次の瞬間。
後方から巨大な車輪が現れた。
「っ!?」
リャンは目を見開く。
黒い円盤のような物体が猛烈な速度で近づいてきていた。
いや、車輪だけではない。
その上には巨大な鉄の箱が載っている。
イーサンが叫んだ。
「道の端だ! 急げ!」
二人は慌てて馬を引き、道の隅へ飛び込む。
直後――。
轟音と共に巨大な鉄の塊が横を通り過ぎた。
暴風のような風圧が二人を襲う。
リャンの帽子が吹き飛びそうになった。
「うおっ!?」
馬も怯えて暴れそうになる。
イーサンは必死に手綱を押さえ込んだ。
「落ち着け!」
巨大な鉄の箱は唸り声のような音を響かせながら走り去っていく。
そのたびに地面が震えた。
リャンは呆然と見上げる。
「……なんだ、あれ」
イーサンも目を細めながら鉄の塊を追った。
「もしかして……あれ、自動車じゃないのか?」
リャンは驚いた顔で振り返る。
「自動車?」
「ああ」
だが二人の頭に浮かんでいた“自動車”は、彼らの時代のものだった。
細い車輪。
露出した座席。
大きなハンドル。
そして何より――。
「……俺達の知ってる自動車と全然違う」
リャンは呆然と呟く。
二人の脳裏に浮かぶのは、かつて見たT型フォードだった。
無骨な鉄の骨組み。
むき出しのエンジン音。
埃を巻き上げながら走る古い車。
だが今目の前を走り去ったものは違う。
滑らかな形状。
完全に閉じられた鉄の箱。
信じられない速度。
まるで未来の機械だった。
リャンは乾いた笑みを浮かべる。
「……同じ“車”とは思えねぇな」
イーサンも静かに頷いた。
「ああ。百年後って言われても信じるレベルだ」
その後も移動し続けるが
その度に何台のも車がやってきた。
タイプも複数あり
また駐車場と思われている場所にもあった。
いくらなんでも多過ぎだろうと思った。
ここはお金持ちのエリア思ってしまうくらいだ
その事実に、二人は改めてこの世界の異常さを実感していた。
その後も二人は慎重に移動を続けた。
巨大な道の端を選び、草陰や縁石の隙間を通りながら進んでいく。
だが――。
ゴォォォォ……。
再び唸るような音が響く。
巨大な車が何台も目の前を通り過ぎていった。
しかも一台だけではない。
黒い車。
白い車。
大きな箱型。
低く平たいもの。
荷台の付いた巨大な車両。
形も大きさもまるで違っていた。
リャンは呆れたように呟く。
「……また来た」
巨大なタイヤが目の前を通過するたび、風圧で草が激しく揺れる。
イーサンも顔をしかめた。
「どれだけ走ってるんだよ……」
しかも道路だけではなかった。
しばらく進んだ先で、二人はさらに異様な光景を目にする。
広い空間。
白い線で区切られた平地。
そこには大量の車が並んでいた。
リャンは思わず立ち止まる。
「……なんだここ」
イーサンは周囲を見回した。
「多分、駐車場だ」
「駐車場?」
「ああ、自動車を止める場所なんだろ」
だが、その数が異常だった。
一台や二台ではない。
見える範囲だけでも10台以上。
さらに奥まで続いている。
まるで鉄の箱が整列している軍隊のようだった。
リャンは乾いた笑みを浮かべる。
「……いくらなんでも多すぎだろ」
イーサンも思わず頷く。
「ここ、お金持ちの地区か何かじゃないのか?」
彼らの時代では、自動車はまだ高級品だった。
金持ちや企業家が持つもの。
庶民にとっては滅多に見ない存在だ。
ましてこれほど大量に並ぶ光景など想像もできない。
だが、この世界では違う。
巨大な鉄の箱が、まるで当たり前のように溢れている。
リャンはぽつりと呟く。
「……この世界、ほんとに同じ人類が作ったのか?」
イーサンは道路を走る車列を見つめたまま答えた。
「分からん。でも少なくとも、俺達の知ってる文明じゃない」
再び一台の車が猛スピードで通り過ぎる。
轟音。
振動。
風圧。
二人はそのたびに身を低くした。
巨人達は、こんな怪物を日常的に操っている。
その事実に、二人は改めてこの世界の異常さを実感していた。
それでも二人は進み続けた。
巨大な道路沿いを避けながら、草陰や縁石の隙間を慎重に進んでいく。
時折、自動車が轟音を立てて通り過ぎる。
そのたびに風が吹き荒れ、地面が小さく震えた。
だが、それに比べると歩いている巨人の姿は少ない。
広い街並みのわりに、人通りは妙にまばらだった。
しかも――。
ここでも、公園内で見かけた巨人達と同じだった。
皆、口元を覆うように“マスク”を着けている。
白いもの。
黒いもの。
布製のようなもの。
彼らから見れば、顔半分を覆う奇妙な装備にしか見えなかった。
リャンは物陰から巨人達を観察しながら小声で言う。
「……やっぱり、感染症の影響なのか?」
イーサンも視線を向けたまま答える。
「多分な」
彼は少し考え込む。
「公園でもそうだった。ここまで全員が着けてるってことは、かなり大きな流行病なんだろ」
リャンは苦い顔をした。
「俺達の時代でも病気はあったけど……ここまで徹底してるのは見たことないな」
「ああ」
イーサンも静かに頷く。
だが、確かな情報は何もない。
新聞の文字は読めない。
言葉も分からない。
耳に入る巨人達の会話も理解できない。
だから今の二人にできるのは、目に見える情報から推測することだけだった。
リャンは帽子を押さえながら空を見上げる。
「結局、推測でしか考えられないんだよな」
「そうだな」
イーサンは遠くの建物群を見つめる。
「でも少なくとも、この世界で何か大きな異変が起きてるのは確かだ」
風が吹き抜ける。
巨大な街は静かだった。
文明は発達している。
自動車は溢れている。
建物も信じられないほど巨大だ。
それなのに、どこか空気が重い。
まるで街全体が緊張しているようだった。
リャンはその光景を見て呟いた。
「……なんか、この世界そのものが病気みたいだな」
イーサンは返事をしなかった。




