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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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生存計画 明日はついに

2020年4月9日 オオホリパーク


こうして二人は再び拠点へ戻ってきた。


 その頃には空はすっかり夕焼けに染まり始めていた。


 赤橙色の光が木々の隙間から差し込み、公園全体を静かに照らしている。


 昼間は賑やかだった鳥の声も減り、代わりに風が葉を揺らす音が耳に残った。


 木の洞へ辿り着くと、二人は慣れた動きで荷物を降ろす。


 入口近くには小さな焚き火が作られた。


 乾いた枝に火が移ると、ぱちぱちと小気味良い音が鳴る。


 橙色の火が洞の入口を揺らしながら照らした。


 イーサンは火を見つめながら、小さく息を吐く。


「……いや、ここはいいな」


 その声には、ほんの少し安堵が混じっていた。


 リャンも壁へ背を預けながら頷く。


「確かにな。雨が降っても安全そうだし、今のところ一番いい場所だろ」


 洞の中は思った以上に暖かい。


 外の風も遮られ、地面も乾いている。


 彼らにとって、それだけで十分すぎるほど贅沢だった。


 しばらく焚き火の音だけが続く。


やがてリャンが火を眺めたまま口を開いた。


「……ついに明日は公園から出るのか?」


 その問いに、イーサンは少しだけ表情を引き締める。


「ああ、もちろんだ」


 彼は枝で火をつつきながら続けた。


「公園内には家がない。食料も限界があるし、道具も足りない」


 ぱちり、と火花が舞う。


「公園の外は今より危険だろうけど……進まないと生き残れない」


 リャンは黙って頷いた。


 巨大な世界。


 見上げるほど高い建物。


 そして、自分達を簡単に踏み潰せる巨人達。


 考えるだけで胃が重くなる。


 だが、止まる訳にもいかなかった。


 イーサンは立ち上がると、洞へ続く縄梯子へ手を掛けた。


「じゃあ、そろそろ眠るとしようか」


 彼は振り返る。


「最初の見張り、頼む」


 リャンは肩をすくめた。


「分かったよ。でも交代の時はちゃんと起きろよ?」


「善処する」


「信用できねぇ返事だな……」


 思わず二人は小さく笑った。


 イーサンはそのまま縄を掴み、木の洞の奥へ登っていく。


 だが馬だけは中へ入れることができなかった。


 洞の入口は、人が一人通るので精一杯なのだ。


 そのため、馬は木の根元へ繋いでおくしかない。


 リャンは焚き火の横へ座り込み、近くで草を食べる馬へ視線を向けた。


 夜の公園には何がいるか分からない。


 猫。

 カラス。

 ネズミ。

 あるいはもっと別の生き物か。


 今の彼らにとっては、そのどれもが脅威だった。


 だから二人は交代で見張りをすることに決めていた。


 リャンは散弾銃を膝に置きながら呟く。


「……そのうち馬用のシェルターも作らないとな」


 焚き火の火が揺れる。


 夜の風が静かに吹き抜ける中、巨大な公園の片隅で、小さな拠点だけがかすかに光を灯していた。



2020年4月10日 オオホリパーク


翌日――。


 ついに、その時が来た。


 夜通し続けた見張りも終わりに近づき、東の空はゆっくりと白み始めていた。


 木々の隙間から差し込む朝日が、公園の地面を淡く照らしていく。


 焚き火はすでに小さな炭火へ変わっていた。


 時折、赤い火種がぱちりと音を立てるだけだ。


 数時間ごとに交代しながら警戒を続けた結果、今はイーサンの番だった。


 彼は木の根元に腰を下ろし、散弾銃を抱えながら周囲を見渡している。


 夜露に濡れた草が朝日に反射し、小さく輝いていた。


 馬も静かに草を食べている。


 どうやら昨夜は何事もなかったらしい。


 その時。


 頭上から縄が軋む音が聞こえた。


 イーサンが顔を上げる。


 木の洞から、リャンがゆっくりと降りてきていた。


 まだ少し眠そうな顔をしているが、その表情には緊張も混じっている。


 地面へ降り立つと、彼は周囲を見回した。


 朝の公園は静かだった。


 遠くから鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。


 リャンはイーサンの隣へ歩み寄る。


「……行くのか」


 短い言葉。


 だが、その一言には不安も覚悟も含まれていた。


 イーサンは少し黙った後、小さく頷く。


「ああ」


 彼は視線を公園の外へ向けた。


 巨大な木々の向こうには、人工物の影が見えている。


 高層建築。


 道路。


 巨人達の世界。


 未知そのものだった。


 イーサンは静かに続ける。


「ここは安全だった。でも、公園だけじゃ生きていけない」


 リャンは腕を組む。


「食料も弾も限界あるしな」


「それに――」


 イーサンは少し目を細めた。


「外に出れば、ここが何なのか分かるかもしれない」


 新聞に書かれていた、あの数字。


 自分達の知る時代ではない世界。


 巨人達が当たり前のように空を飛び、

水を自在に扱う場所。


 他にも自分達の常識に当てはまらないものもあるかもしれない。

探求してみたいという気持ちが強くなった。


 リャンは深く息を吐き、腰のライフルを持ち上げる。


「……じゃあ、冒険再開だな」


 イーサンは口元をわずかに緩めた。


「ああ。死なない程度にな」


 朝日が二人を照らす。


 そしての旅人達は、ついに安全な公園を後にしようとしていた。


二人は静かに出発の準備を始めた。


 木箱の中から必要な物を取り出し、馬の背へ固定していく。


 缶詰。

 水を入れた小瓶。

 弾薬。

 ロープ。

 毛布代わりの布切れ。


 リャンは縄を強く引きながら確認する。


「よし……これなら落ちないはずだ」


 馬は小さく鼻を鳴らした。


 イーサンは散弾銃を担いで周囲を見渡す。


 朝の空気はまだ冷たい。


 湿った土の匂いが漂っていた。


 彼は木の洞を振り返る。


 新たに作った仮拠点。


 だが、この巨大な世界で初めて“安全”と思えた場所だった。


 そして――出発した。


 馬の手綱を引きながら、草むらの間を進んでいく。


 朝露に濡れた葉が服へ触れ、そのたびに冷たい水滴が落ちた。


 巨大な木々の間を抜けるたび、外の景色が少しずつ近づいてくる。


 しばらく進んだ頃だった。


 前方に人工物らしきものが見え始める。


 灰色の柱。


 広く開いた通路。


 巨大な柵。


 リャンが足を止めた。


「……あれ」


 イーサンも目を細める。


「多分、公園の入口だな」


 彼らから見れば、それは巨大な門だった。


 金属製の柵はまるで城壁のように高く、地面には平らな石畳がどこまでも続いている。


 入口の向こう側には、さらに広い世界が広がっていた。


 遠くには巨大な建物の影。


 聞き慣れない低い唸り声のような音。


 そして時折、地面が微かに震える。


 リャンは思わず唾を飲み込んだ。


「……本当に外へ行くんだな」


 イーサンは静かに頷く。


「ああ」


 彼は散弾銃へ手を添えた。


「ここから先は、もっと危険になる」


 風が吹く。


 巨大な都市の匂いが流れ込んできた。


 そして二人は、公園の出口へ向かってゆっくり歩き始めた。

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