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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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18/22

生存計画  色々あるはずだ

2020年4月9日 オオホリパーク


――そして今に至る。


 


木の根元の空洞でしばらく休んだ後、二人は再び動き始めていた。


リャンは馬に括り付けていた小さな木箱を取り出す。


一方二頭の馬が静かに草を食べている。


中には事前に分けておいた缶詰とウォッカが入っている。


イーサンは周囲を警戒しながら言った。


「そこ、奥に入れろ」


「ああ」


リャンはしゃがみ込み、木の根の陰へ箱を押し込む。


湿った土へ半分埋めるように隠すと、外からはほとんど見えなくなった。


さらに周囲へ枯れ葉を被せる。


完全に“隠し物資”だった。


時折聞こえる咀嚼音が、不思議と空洞の静けさを和らげていた。


イーサンは隠した場所を確認すると、小さく頷く。


「よし……こんな感じでいいな」


リャンも満足そうに息を吐く。


「見つかる可能性は低そうだな」


「全部持ち歩くよりマシだ」


イーサンは地図を取り出し、小さな印を書き加えた。


簡単な記号。


だが二人にしか分からない目印だ。


リャンはその様子を見ながら苦笑する。


「本当に拠点作り始めたな」


「生き残るなら必要だ」


イーサンは地図を畳み、上着へ戻した。


「この世界、何が起きるか分からない」


その時だった。


遠くでズゥン……と重い振動が響く。


巨人の足音。


木々が微かに揺れ、地面の砂が震えた。


二人は反射的に黙り込む。


リャンはライフルへ手を添え、小さく呟く。


「……相変わらず慣れねえな」


「慣れたくもない」


イーサンも散弾銃を握り直した。


しばらくして振動が遠ざかる。


ようやく空気が緩んだ。


リャンは立ち上がり、馬の手綱を引く。


「じゃあ次に行くか」


「ああ」


イーサンも頷く。


二人は再び歩き始めた。


巨大な雑草の森。


遥か頭上に広がる空。


遠くで鳴り続ける巨人達の文明の音。


その巨大な世界の片隅を、小さな二人は慎重に進んでいく。


生き残るために。


そして、自分達の居場所を作るために。


しばらく進むと、リャンがふと立ち止まった。


「……上見ろ」


イーサンが視線を向ける。


巨大な木の幹。


その途中に、黒い裂け目のような穴が空いていた。


木の洞だった。


イーサンは目を細める。


「……入れそうだな」


二人は根を足場にしながら慎重に登る。


小さいの身体では、それだけでも崖登りに近い。


途中、樹皮へナイフを突き立てながら進み、

ようやく洞へ辿り着いた。


中は思ったより広かった。


乾いた木の匂い。


外から吹き込む風。


そして暗闇。


リャンは周囲を見回し、小さく口笛を吹く。


「悪くない」


イーサンも壁を軽く叩く。


「湿気も少ないな」


洞の入口は狭い。


だが内部には十分な空間がある。


小人の二人には倉庫として理想的だった。


リャンは背負っていた荷物を降ろす。


「ここ、物資置き場にしようぜ」


「食料庫か?」


「ああ。地面より安全だ」


イーサンも頷く。


確かに地上は危険が多い。


猫。

虫。

雨。

増水。


だがここなら、その多くを避けられる。


リャンは缶詰入りの小箱を奥へ押し込みながら笑った。


「なんか冬眠前のリスみたいだな」


イーサンは散弾銃を抱え直しながら返す。


「実際、生き方はあんま変わらん」


その時。


遠くでズゥン、と巨人の足音が響いた。


だが地上にいた時ほどの恐怖はない。


高所にいるだけで、不思議と安心感が違った。




イーサンとリャンは、周囲から集めてきた細い枝や持っていた縄を使い、洞へ登るための足場を作っていた。


太い根に縄を結び、途中には木片を括り付ける。


簡素ではあるが、彼らにとっては十分な“階段”だった。


リャンは縄を強く引っ張りながら満足そうに頷く。


「これなら登る時に滑り落ちなくて済みそうだな」


イーサンも木の表面を軽く叩いた。


「前よりずっといい。荷物を持ってても登れそうだ」


洞の内部には、事前に運び込んだ木箱が置かれている。


中にはウォッカの小瓶、缶詰、一部の

弾薬が詰め込まれていた。


狭いながらも、ようやく“拠点”らしくなってきていた。


だが、イーサンがここを選んだ理由はそれだけではない。


彼は洞の入口から外を見下ろしながら言った。


「あと、ここは水の確保ができる」


リャンが眉を上げる。


「あと、ここは水の確保ができる」


リャンが眉を上げる。


「水?」


「ああ。少し歩いた所に遊具があるだろ」


そう言って二人は木を降り、小さな探検隊のように草むらを進んでいく。


やがて視界が開けた。


そこには巨大な石造りの水飲み場があった。


彼らから見れば、それはもはや巨大建造物だった。


灰色に汚れたコンクリートの壁が高くそびえ、上部には銀色の蛇口が突き出している。


片側は緩やかな斜面になっており、水が細い川のように流れ落ちていた。


下には浅い水溜まりが広がり、周囲の赤い地面は濡れて黒ずんでいる。


リャンは思わず口を開けた。


「……なんだこれ。遺跡みたいだな」


イーサンも見上げながら苦笑する。


「ただ、周りがこんなに濡れてるってことは……あれは蛇口なんだと思う」


リャンは顔を上げ、銀色の突起を見つめた。


「蛇口、か」


彼らから見れば、それは金属製の塔のようだった。


表面には無数の水滴が付着し、夕陽を受けて鈍く光っている。


リャンは感心したように周囲を見回した。


「この“オオホリパーク”って場所、水に恵まれてるんだな」


イーサンも同意するように頷く。


「確かにな。真ん中には大きな池があるし、その周りには水路まである。しかも水が綺麗だ」


リャンは鼻で笑った。


「俺たちの故郷の川より綺麗だよ」


その言葉に、イーサンは少しだけ遠い目をした。


濁った川。

油の浮いた水面。

鼻を突く臭い。


幼い頃から見慣れていた故郷の景色が脳裏を過ぎる。


「……確かに」


短く呟く声には、妙な実感がこもっていた。


二人は慎重に水飲み場の斜面を登り始める。


湿ったコンクリートは滑りやすく、靴底が時折ずるりと滑った。


「おっと……!」


リャンが慌てて縄を掴む。


イーサンは振り返りながら苦笑した。


「落ちるなよ。ここから落ちたら笑えないぞ」


「分かってるって!」


ようやく二人は蛇口の近くまで辿り着いた。


金属の表面には水が薄く流れ続けている。


まるで巨大な鉄の崖を、小川が伝っているようだった。


リャンは顔を近づけ、慎重に舌で水を舐める。


次の瞬間、目を丸くした。


「……うめーな」


イーサンも水滴を手で受け、そのまま飲む。


冷たい。


驚くほど澄んでいた。


リャンは笑いながら言う。


「なんか山の湧き水みたいだ」


イーサンは蛇口を見上げた。


この巨大な世界では、こんな場所からいつでも綺麗な水が出る。


彼には信じられなかった。


「この世界の水道技術……すごいな」


感心したように呟く。


リャンは水滴を頭から浴びながら笑った。


「巨人達って、変な世界に住んでるよな」


イーサンも小さく笑う。


「ああ。でも、生き残るには都合がいい」


陽に照らされた蛇口から、水滴が静かに落ち続けていた。

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