↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人都市  作者: ハネクリ0831


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

生存計画 なんてな

2020年4月9日 オオホリパーク


「……まあ、なんてな」


リャンも肩をすくめる。


「だな」


先ほどまで張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。


イーサンは肩に掛けていた散弾銃を持ち直しながら言った。


「だって、私達は病気とか無縁の世界だ」


「確かに」


リャンはライフルを背負い直しながら苦笑する。


「少し前に肺炎が流行った時も、俺達まったくかかる気配なかったもんな」


「あの時は周りが大騒ぎだったのに、俺達だけ普通だった」


「今回も大丈夫だろ」


二人はどこか楽観的だった。


そもそも路地裏育ちの二人は、衛生環境など気にして生きてきたことがない。


汚れた水。

煙草の煙。

酒。

埃だらけの寝床。


そんな環境でも生き延びてきた。


だからこそ、“病気”というものをどこか遠い話のように感じていた。


イーサンは散弾銃の木製ストックを軽く叩く。


「むしろカマキリとか猫の方が怖い」


「それは間違いない」


リャンも即答した。


「病気より踏み潰される方が先だわ」


「違いない」


二人は小さく吹き出した。


巨大な世界に放り込まれたというのに、不思議と余裕を失ってはいない。


ある意味、それは路地裏で鍛えられた生存本能なのかもしれなかった。


やがてリャンが周囲を見回し、表情を引き締める。


「……そんな事より動こうか」


「ああ」


イーサンも頷いた。


冗談を言っている暇は長くない。


この場所は広すぎる。


そして危険が多すぎた。


リャンは馬の手綱を引きながら前を向く。


背中には長いライフル。


「とりあえず今日は建物探し優先だな」


「出来れば人が少ない場所がいい」


イーサンは散弾銃を抱え直しながら続ける。


「あと、水を確保できる場所も欲しい」


「欲を言えば壁付き」


「贅沢だな」


「でも必要だ」


二人は慎重に花壇から這い出た。


巨大な歩道。

遥か上にそびえる木々。

遠くから響く謎の機械音。


まるで巨人の文明の隙間を進む小動物だった。


それでも二人は止まらない。


生き残るために。


そして、この世界を知るために。






しばらく歩くと――


その時だった。


「……おい、あれ」


リャンが小さく声を漏らす。


イーサンが視線を向けると、大木の根元に黒い影が見えた。


土がえぐれ、小さな空洞になっている。


近づくと、それは二人が身を屈めれば十分入れる広さがあった。


リャンは周囲を警戒しながら低く言う。


「悪くないな」


イーサンも入口を確認する。


「上から見えにくい」


根が天然の壁になっていた。


さらに周囲には雑草が密集しており、外からでは空洞の存在そのものが分からない。


リャンはライフルを背中から降ろす。


「今日はここを休憩場所にするか?」


イーサンは少し考え、頷いた。


「ああ。少なくとも踏み潰される心配は減る」


二人は中へ滑り込む。


内部は湿った土の匂いが強かった。


だが、不思議と安心感がある。


外では巨大な世界が動き続けている。


人間達の声。


遠くを走る機械音。


風で揺れる草木。


その全てが、自分達とは別世界の出来事のようだった。


リャンは入口付近に腰を下ろし、ライフルを抱える。


「……なんか穴蔵暮らしの動物になった気分だな」


イーサンは散弾銃を膝に置き、小さく笑った。


「今の俺達は実際そんなもんだろ」


しばらく沈黙が続く。


やがてイーサンは上着の内側へ手を入れ、折り畳まれた紙を取り出した。


昨日写した地図がある。


イーサンはポケットから鉛筆を取り出すと、今いる場所へ小さく印を書き込んだ。





一体なんでこんな事をしているのかというと――


昨日の夜に遡る。


イーサンは散弾銃を膝に置きながら、地面へ枝で線を引いていた。


「建物を探すのは賛成だが、そこだけだと不安がある」


リャンはウォッカの入った小瓶を傾けながら聞き返す。


「……っていうと?」


イーサンは枝先で地面を叩いた。


「一ヶ所に頼るのは危険だ。この世界、何が起こるか分からない」


頭上では、時折巨人達の足音が遠雷のように響いている。


その度に地面が微かに震えた。


イーサンは続ける。


「だから何ヶ所か拠点を作ろうと考えてる」


リャンは少し考えた後、小さく頷いた。


「確かにな。それは賛成だ」


彼はライフルを抱え直しながら苦笑する。


「そこが絶対安全とは限らないからな」


「猫に見つかるかもしれない。人間が来るかもしれない。雨で潰れるかもしれない」


イーサンは淡々と言った。


「逃げ場所は必要だ」


リャンは「違いない」と鼻を鳴らす。


路地裏時代もそうだった。


警官に追われた時。


ギャング同士の抗争。


冬の寒波。


二人は街中に複数の隠れ場所を持って生き延びてきた。


イーサンは地面へ簡単な印を書きながら言う。


「そこでだ。散策するついでに安全そうな場所へ印を付ける」


「印?」


「ああ。仮拠点だ」


彼は枝で丸を描いた。


「寝床、水場、隠れ場所。全部分ける」


リャンは感心したように笑う。


「まるで軍隊だな」


「生き残るには必要だ」


イーサンは真顔だった。


するとリャンがふと思いついたように口を開く。


「……なら俺も一つ提案がある」


「なんだ?」


リャンは荷物袋を軽く叩いた。


「せっかくだし、一部の物資もそこに保管しよう」


イーサンが眉を上げる。


「分散させるのか?」


「ああ。全部持ち歩いて失くしたら終わりだろ」


確かにその通りだった。


今の二人にとって、物資は命そのものだ。


リャンは袋の中を覗き込みながら続ける。


「保存性の高い缶詰とウォッカを置いていく」


「酒か?」


「アルコールは傷の消毒にも使える。それに腐りにくい」


リャンは肩をすくめた。


「缶詰も湿気には多少耐えられるはずだ」


イーサンは少し考え、納得したように頷く。


「……なるほどな」


リャンは小さく笑う。


「路地裏でもやってただろ? 隠し金庫みたいなもんだ」


「まあな」


イーサンも口元を緩めた。


昔は盗んだ金や食料を、街中の廃屋や排水溝へ隠していた。


それとやる事は変わらない。


違うのは――


世界があまりにも巨大になっただけだ。


風が吹く。


雑草がざわりと揺れた。


リャンは暗闇の向こうを見ながら呟く。


「……しかし、本当に動物みたいな生活になったな」


イーサンは散弾銃を抱え直し、小さく笑う。


「生きてるだけマシだろ」


そして彼はふっと昔を思い出したように目を細めた。


「確かアウラさんも言っていた」


リャンが首を傾げる。


「なんて?」


イーサンは低く呟いた。


「“株と住処は分散すべし。食べ物はちゃんと分けろ”」


一瞬、静寂が流れる。


そしてリャンが吹き出した。


「なんだその教え」


「でも間違ってない」


イーサンも少し笑う。


そして今に至る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。