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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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生存計画  少なくなった。

2020年4月9日 オオホリパーク


二人は瞬時に警戒態勢へ入った。


イーサンは散弾銃を握り締め、リャンも反射的にライフルへ手を伸ばす。


「隠れるぞ」


「ああ」


二人は馬を引きながら、慌てて近くの花壇へ身を潜めた。


背の高い草花が、今の彼らには森のように見える。


葉の隙間から慎重に外を覗く。


やがて姿を現したのは、一人の女性だった。


緑色の制服。

帽子。

腕には腕章のようなものを付けている。


その姿からして、公園の職員なのだろう。


女性は巨大な袋を片手に提げ、もう片方には長い金属製の棒を持っていた。


先端には挟むための金具が付いている。


「……清掃員、か?」


イーサンが小声で呟く。


「掃除してるっぽいな」


リャンも息を潜めながら答えた。


女性は慣れた様子で道を歩き、落ちているゴミを次々と拾っていく。


缶。

紙。

小さな包装。


その動きは手慣れていた。


そして――。


二人が先ほど見つけた透明な容器の前で立ち止まる。


「あっ」


リャンが思わず声を漏らしかけ、慌てて口を押さえた。


イーサンも息を止める。


女性職員は特に気にした様子もなく、長い金属製の棒――トングをゆっくり伸ばした。


巨大な金属の先端が空から迫ってくる。


今の二人から見れば、巨大な機械のアームそのものだった。


カシャン。


トングが透明な容器を掴む。


「……すげぇ」


リャンが目を丸くする。


女性はそれを軽々と持ち上げると、大きな袋の中へ放り込んだ。


ガサッ。


低い音が響く。


たったそれだけ。


それだけの動作なのに、二人には巨大な文明の力を見せつけられているようだった。


その時、女性職員がぽつりと呟く。


「なんか緊急事態宣言が始まってから、人もゴミも少なくなったなぁ……」


どこか不安そうな声だった。


「これからどうなるんだろう……」


女性は小さくため息をつく。


当然、イーサン達には言葉の意味は分からない。


聞き取れない言語。

知らない単語。


だが――。


声色だけで、“不安”を感じている事は伝わった。


リャンがひそひそ声で言う。


「……なんか困ってる感じじゃないか?」


「かもな」


イーサンも小さく頷いた。


巨人達にも、巨人達なりの問題があるらしい。


女性職員は周囲を軽く見回す。


その視線がこちらへ向いた瞬間、二人の心臓が跳ねた。


イーサンは反射的に身体を伏せる。


リャンも馬の口を押さえた。


馬達が鼻を鳴らしたら終わりだ。


だが女性は何も気づかなかった。


再び前を向き、そのまま歩き出す。


ズシン。

ズシン。


一歩進むたび、地面が小さく震える。


巨大な存在。


圧倒的な質量。


やがて彼女の姿は遠ざかり、再び静寂が戻った。


数秒後。


リャンが深く息を吐く。


「……はぁぁ。危なかった」


「ああ……」


イーサンも肩の力を抜いた。


もし隠れるのが少し遅れていたら。


いや、気づかれる以前に、普通に踏み潰されていた可能性すらある。


リャンは去っていく女性の背中を見ながらぼやく。


「この世界の人間、普通に怪獣なんだよな……」


「しかも本人達は、その自覚ゼロだ」


イーサンは乾いた笑みを浮かべた。


巨人達にとって、自分達は蟻にも満たない存在なのだろう。


だからこそ恐ろしい。


悪意が無くても死ぬ。


その現実を、二人は嫌というほど理解し始めていた。


イーサンは散弾銃を握り直す。


「……やっぱり、この世界で一番危険なのは人間かもしれないな」


リャンも静かに頷いた。


花壇の影で、小さな二人だけが息を潜めていた。


通り過ぎた足音が完全に遠ざかるのを待ってから、二人はようやく身を出した。


「……相変わらず凄いな」


 その声には、呆れとも感嘆ともつかない響きが混じっていた。


 リャンも苦笑しながら肩をすくめる。


「ああ。あれは何度見ても慣れないよ」


 ほんの少し前まで、自分達より遥かに巨大な“人間”がすぐ横を歩いていたのだ。


 一歩踏み外されれば、それだけで命は消える。


 二人にとって、この世界の日常は常に死と隣り合わせだった。


 しばらく無言で歩いていたが、やがてイーサンが口を開いた。


「……なあ、後ずっと気になっていた事があるんだが」


 リャンはすぐに察したように視線を向ける。


「多分、同じ疑問だと思う」


 二人は顔を見合わせた。


 そして、ほとんど同時に口を開く。


「「なんで巨人達はマスクを着けているのだろうか?」」


 言葉が重なった瞬間、二人は思わず黙り込む。


 初めてこの世界へ来た日から、ずっと違和感があった。


誰もが口元を布のような物で覆っている。


 最初は奇妙な文化かとも思った。


 だが、人数が多すぎる。


 子供も老人も、男も女も、例外なく着けていた。


 リャンが低い声で呟く。


「やっぱり……流行病、なのかな」


 イーサンは眉をひそめる。


「俺もそう思ってる。しかも、かなり大規模な」


 つまり――。


「……誰が感染してるか分からない病気、か」


 リャンの言葉に、空気が重く沈む。


 二人は自然と周囲を見回した。


 巨大な世界。

 見知らぬ文明。

 そして正体不明の流行病。


 イーサンは無意識に拳銃のグリップを握り締める。


「もし私達まで感染したら……どうなるんだろうな」


なんて考えた。



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