生存計画 これでやりやすくなる
二人は早速、出発の準備に取りかかった。
木箱。
弾薬箱。
布や工具。
限られた物資を、一つずつ馬の体へ括り付けていく。
リャンはロープを強く引きながら確認した。
「よし……これなら落ちないな」
「こっちも大丈夫だ」
イーサンは馬の脇へ小さな木箱を固定すると、申し訳なさそうにその首を撫でた。
「ごめんな。重いだろうけど耐えてくれ」
馬は鼻を鳴らし、軽く頭を振る。
その反応にイーサンは少しだけ笑った。
リャンは荷物の量を見回しながら口笛を吹く。
「いやー、楽になったなこれ」
「ああ」
今までは、自分達だけで荷物を背負って移動していた。
そのせいで移動距離には限界があり、必ず拠点へ戻らなければならなかった。
だが今は違う。
馬がいる。
それだけで運べる量も行動範囲も、一気に広がった。
リャンは手を腰に当てる。
「これなら遠くまで探索できるな」
「空き家探しも現実的になる」
「食料ももっと持ち運べるしな」
希望が少しずつ形になり始めていた。
しかし問題もある。
イーサンは壊れた革製品を手に取り、眉をひそめた。
「……鞍は完全に駄目だな」
革は裂け、金具も曲がっている。
恐らく鉄砲水で流された際に壊れたのだろう。
リャンも苦笑する。
「乗るのは無理そうだな」
「今だと修理も簡単じゃない」
今の二人では直す材料がない
まともな修理作業は難しかった。
「だから当分は手綱で引っ張っていくしかないな」
「まあ、それでも十分ありがたい」
リャンは馬の首を軽く叩いた。
「頼りにしてるぞ相棒」
馬は再びヒヒン、と鳴く。
その声が朝の公園へ響いた。
やがて準備を終えると、リャンが周囲を見回した。
焚き火の跡。
寝床にしていた布。
足跡。
ここに誰かがいた痕跡がまだ残っている。
リャンの表情が少し真剣になる。
「……とりあえず移動するか」
「ああ」
「それと、ここの痕跡を消すぞ」
イーサンも頷いた。
「そうだな。ここを縄張りにしてる生き物が来る可能性もある」
「巨人とかに見つかったら最悪だし」
二人は手分けして痕跡を消し始めた。
焚き火へ土をかけ、
荷物を置いていた跡を葉で隠し、
地面の足跡も出来る限り崩していく。
まるで追われる逃亡者のようだった。
だがこの世界では、慎重すぎるくらいで丁度いい。
準備を終えたリャンが、森の向こうを見据える。
「……行くか」
イーサンは散弾銃を肩へ掛け、静かに頷いた。
「ああ」
こうして二人は、
三日間過ごした最初の拠点を後にした。
巨大な“オオホリパーク”のさらに奥へ向かって。
朝露に濡れた草をかき分けながら、二人は森の中を進んでいた。
馬達の足音が静かに地面を踏み鳴らす。
以前までなら、自分達で抱えていた荷物が、今は馬の背に積まれている。
それだけで身体の軽さがまるで違った。
リャンは手綱を握りながら笑う。
「すげぇな。身体が軽いだけでこんな楽なのか」
「確かにな。昨日とはえらい違いだ」
イーサンは周囲を警戒しながら答えた。
それでも油断はしない。
この世界では、小さな物音一つが命取りになりかねない。
巨大昆虫。
巨大動物。
そして、あの巨人のような人間達。
何が現れても不思議ではなかった。
やがて二人は池に架かる橋へ辿り着く。
巨大な金属の柵。
見上げるほど高い街灯。
足元に広がる硬い地面。
橋を渡るたび、二人は改めて自分達の小ささを実感していた。
「何回見ても、とんでもない世界だな……」
リャンが呟く。
イーサンも静かに頷いた。
「ああ。全部が巨大すぎる」
橋を抜けると、さらに大きな道へ出た。
左右へ真っ直ぐ伸びる灰色の地面。
白い線が描かれ、
巨大な鉄の柵が続いている。
まるで巨人の都市だった。
その時だった。
「あれ、なんだ?」
リャンが道端を指差す。
そこには透明な物体が転がっていた。
最初、イーサンはガラス瓶かと思った。
だが近づくにつれ違和感を覚える。
妙に軽そうな質感。
表面の柔らかい反射。
「……何か違うな」
二人は慎重に近づいた。
イーサンがそっと触れてみる。
べこん。
「うおっ」
軽く押しただけで表面が凹んだ。
ガラスではあり得ない感触だった。
リャンも目を丸くする。
「なんだこれ?」
「少なくともガラスじゃないな……」
透明なのに、柔らかい。
しかも割れる気配がない。
イーサンは物体の中を覗き込んだ。
底には少量の液体が残っている。
「中に液体みたいなのが入ってる……」
「飲み物か?」
「多分な。飲み物を入れる容器なんだと思う」
リャンは感心したようにその透明な物体を持ち上げた。
「すげぇ軽いぞこれ」
「なのに割れない……」
イーサンは少し考え込む。
元の世界なら、透明な容器といえば基本的にガラスだった。
だがこれは明らかに違う。
未知の素材。
未知の技術。
この世界の文明は、自分達の時代より遥かに進んでいるのかもしれない。
リャンは容器を光へ透かしながら笑う。
「未来の道具って感じだな」
「……未来、か」
ここは本当に、自分達が知る世界の延長線上なのだろうか。
その時
ズゥン。
遠くから低い振動音が響いた。
地面が僅かに震える。
二人は反射的に身を低くした。
「……来た」
リャンが小声で呟く。
ズゥン。
ズゥン。
一定の間隔で響く振動。
まるで巨大な何かが歩いているような音だった。




