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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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生存計画 来訪者

食事を終えた後。


焚き火の火は少し弱まり、夜の冷たい空気が辺りを包み始めていた。


二人は火のそばへ腰を下ろし、小さな瓶を回しながらウォッカを飲んでいた。


リャンが瓶を軽く振る。


「いやぁ……今日は濃すぎる一日だったな」


「ああ……」


イーサンは苦笑しながら瓶を受け取った。


喉へ流し込むと、強いアルコールが焼けるように広がる。


「っ……くるなこれ」


「ウォッカだしな」


リャンは焚き火へ枝を放り込みながら笑った。


ぱちり、と火花が舞う。


少し酔いが回ってきたのか、張り詰めていた空気もだいぶ和らいでいた。


イーサンは空を見上げながらぽつりと呟く。


「いやー……あの巨大な女性を見た時は驚いたよ」


その瞬間の光景が脳裏に蘇る。


空を覆うほど巨大な影。


地響きのような足音。


自分達を遥か上から見下ろす顔。


今思い出しても現実感がなかった。


リャンは思い出したように吹き出す。


「本当本当。あのまま潰されるかと思ったよ」


「お前あの時完全に固まってたじゃないか」


「そっちだって似たような顔してたぞ」


「してない」


「してたって」


二人は小さく笑った。


だが笑いながらも、その時の恐怖は確かに残っている。


もし相手がこちらに気づいていたら。


もし足元を見ていたら。


自分達は今ここにいなかったかもしれない。


イーサンは焚き火を見つめながら言う。


「……でも不思議だよな」


「何が?」


「この世界の人間、多分俺達と同じ人間なんだろ? 街もあるし、看板もあるし」


「ああ」


「なのに、俺達からすると巨人だ」


リャンも真顔になる。


「しかも文字は読めないけど、数字とか一部は似てる」


「完全な異世界って感じでもないんだよな……」


風が吹き抜ける。


木々がざわりと揺れた。


リャンはウォッカを一口飲み、ぼそりと漏らす。


「俺達だけ小さくなったのか」


「それとも、この世界に来た時点でこうなったのか」


「考えても分からんな」


「だな」


しばらく沈黙が続く。


焚き火の音だけが静かな夜に響いていた。


やがてリャンが少し笑う。


「でもまあ、生きてるだけマシか」


イーサンも口元を緩めた。


「違いない」


今日だけで何度死にかけたか分からない。


川に流され、

巨大昆虫に襲われ、

巨大な人間と遭遇し、

見たこともない世界を彷徨った。


それでも二人はまだ生きている。


リャンは酔った勢いで空へ瓶を掲げた。


「とりあえず今日を生き延びた事に乾杯!」


イーサンも瓶を軽くぶつける。


かちん、と小さな音が鳴った。


巨大な世界の片隅で、

小さな二人だけの静かな夜が更けていった。



2020年4月9日 オオホリパーク


イーサンが目を覚ますと、空はすでに白み始めていた。


木々の隙間から差し込む朝日が、拠点代わりの場所をぼんやりと照らしている。


「……うぅ……」


体を起こした瞬間、全身に鈍い疲労が走った。


地面の上で寝たせいか背中が痛い。


イーサンは顔をしかめながらゆっくり起き上がる。


消えかけた焚き火からは、まだ薄く煙が立っていた。


「もう三日、か……」


ぽつりと呟く。


この巨大な世界へ流れ着いてから、もう三日が経とうとしていた。


だが状況は何一つ分かっていない。


元の世界へ戻る方法も、

自分達が何故こうなったのかも、

ここがどこなのかすら。


イーサンはぼんやり空を見上げた。


「……いや」


小さく首を振る。


「別に、戻るつもりもないか」


元の世界に未練がないわけじゃない。


だが、戻ったところで何がある?


路地裏の生活。

危険な運び屋の仕事。

差別と貧困。


少なくとも、この世界には“自由”があった。


命懸けだとしても。


その時、近くで寝袋代わりの布が動いた。


「……んん」


リャンが目を擦りながら起き上がる。


寝癖だらけの髪のまま、ぼんやりとイーサンを見る。


「おはよう」


「ああ、おはよう」


朝の冷たい空気の中、短いやり取りが交わされた。


リャンは立ち上がると軽く背伸びする。


「よし、とりあえず朝の準備始めるから待ってくれ」


「ああ、ありがとう」


イーサンも荷物へ手を伸ばした。


今日は空き家探しをする予定だ。


出来るだけ早く、安全な拠点を確保したい。


そんな事を考えながら出発準備を始めようとした、その時だった。


――ガサッ。


奥の草むらから音が響いた。


二人の動きが止まる。


イーサンは即座に散弾銃へ手を伸ばし、リャンもライフルを掴んだ。


空気が一瞬で張り詰める。


「……来るぞ」


「分かってる」


昨日遭遇した巨大カマキリが脳裏をよぎる。


朝だから安全とは限らない。


この世界では、何が現れても不思議じゃなかった。


草が揺れる。


ガサ……ガサガサッ。


何かが近づいてくる。


二人は息を潜め、銃口を向けた。


そして――。


「ヒヒーン!」


草むらから飛び出してきたのは、二頭の馬だった。


「……え?」


イーサンが思わず間の抜けた声を漏らす。


しかも巨大サイズではない。


今の二人の視点で見ても、“普通の馬”の大きさだった。


茶色い毛並み。


その姿を見た瞬間、リャンの目が大きく開く。


「お前達……!」


彼はライフルを下ろし、慌てて駆け寄った。


「無事だったのか!?」


馬達は嬉しそうに鼻を鳴らす。


イーサンもようやく気づいた。


「……あいつら、俺達の馬車の馬か!」


二頭の馬は、元の世界で荷物運びに使っていた相棒達だった。


どうやら二人と同じように、この世界へ来てしまったらしい。


リャンは馬の首を撫でながら笑う。


「こりゃ良いな。これでかなり楽になるぞ」


「確かに……荷物運搬問題が一気に解決したな」


イーサンも少し表情を緩めた。


この三日間で、初めて“まともな希望”を見つけた気がした。


馬達は二人の周囲を落ち着いた様子で歩き回っている。


少なくとも敵意はない。


リャンは鼻を鳴らした。


「いやー、まさか再会できるとはな」


「運が良いのか悪いのか分からんな」


「でも、こいつらがいるだけで安心感あるだろ?」


「ああ、それは認める」


巨大な世界。


未知の危険。


その中で、元の世界を知る存在と再会できた事は、二人にとって想像以上に大きかった。

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