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巨人都市  作者: ハネクリ0831


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21/21

知った能力 知らないといけない

二人はさらに街の中を進み続けた。


 巨大な道路を離れ、少し細い道へ入る。


 周囲には背の高い建物が並んでいたが、その中でも特に目を引くものがあった。


 無数の窓。


 規則正しく並ぶベランダ。


 灰色の巨大建築。


 まるで積み上げられた箱の集合体だった。


 リャンは思わず足を止める。


「……なんだあれ」


 イーサンも建物を見上げた。


「集合住宅、ってやつじゃないか?」


 三センチの彼らから見れば、それはもはや崖だった。


 何十もの窓が空中に並び、人影が時折横切っていく。


 洗濯物らしき布が風に揺れていた。


 リャンは顔をしかめる。


「人、普通に住んでるな……」


「ああ」


 イーサンはしばらく建物を眺めた後、ぽつりと呟いた。


「……気になるな」


 リャンは即座に振り返る。


「いやいや、落ち着けって」


 彼は慌てたように建物を指差した。


「家を見てみろよ。明らかに人がいるじゃないか」


「分かってる」


「だったら近づく必要ないだろ!」


 だがイーサンは視線を外さない。


 むしろ興味深そうに窓を見上げていた。


「そういう意味じゃない」


「じゃあ何だよ」


 イーサンは少し口元を緩める。


「せっかくだし、巨人達の生活を見てみないか?」


 リャンは眉をひそめた。


「……どういう事だ?」


 イーサンは建物の下を指差す。


 そこには排水管や配線、室外機などが複雑に並んでいる。


 三センチの彼らなら、人間に気付かれず近づけそうだった。


「この世界の連中がどうやって暮らしてるのか知りたい」


 イーサンは静かに続ける。


「食い物、水、道具、生活の仕組み……全部だ」


 リャンは腕を組む。


「偵察ってことか」


「そんなところだな」


 イーサンは再び集合住宅を見上げた。


「俺達が生き残るなら、この世界を知らないといけない」


 巨大なベランダでは、誰かが布を干している。


 窓の奥では光が動き、人影が行き来していた。


 三センチの彼らにとって、それは未知の文明そのものだった。


 リャンはしばらく黙り込む。


 やがて深く息を吐いた。


「……危なくなったら即逃げるぞ」


 イーサンは小さく笑った。


「ああ。さすがに踏み潰されたくはない」


 二人は顔を見合わせる。


 そして巨大な集合住宅の足元へ向かって、慎重に歩き始めた。


二人は集合住宅の周囲を慎重に歩き回った。


 巨大な壁は灰色の岩肌のようにそびえ立ち、見上げるだけで首が痛くなる。


 時折、上階から聞こえる生活音が空気を震わせていた。


 水の流れる音。

 人の話し声。

 何か硬い物を置く音。


 どれも三センチの彼らには巨大な世界の響きだった。


 リャンは壁を見上げながら呟く。


「近くで見ると本当に要塞だな……」


「ああ。でも――」


 イーサンは足元へ視線を落とした。


「登れそうだ」


 そこには細い亀裂が走っていた。


 コンクリートの継ぎ目がわずかに割れ、小さな段差になっている。


 三センチの彼らにとっては十分すぎる足場だった。


 リャンも顔を近づける。


「……確かにいけそうだな」


 二人はすぐ近くへ馬を連れていく。


 馬は落ち着かない様子で鼻を鳴らしていた。


 イーサンはその首を軽く撫でる。


「お前達、少し待っててくれよ」


 そう言って近くの金属柵へ縄を結び、馬を固定した。


 リャンは周囲を警戒しながら聞く。


「逃げたりしないよな?」


「多分な」


「その“多分”が怖いんだよ」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


 そして――。


 亀裂を伝い、巨大建築の壁を登り始める。


 靴底がざらついたコンクリートを擦る。


 時折、小石が落ちていった。


 三センチの体では、わずかな段差でも崖を登るような感覚だった。


 リャンが息を切らしながら呟く。


「これ……普通に山登りだろ……」


「下見るなよ」


「言われると見たくなる!」


 ようやく二人は途中の突起へ辿り着く。


 そこは“ベランダ”だった。


 三センチの彼らから見れば、小さな広場のような広さがある。


 床には水滴が残り、洗濯物の影が揺れていた。


 近くには巨大な観葉植物が置かれている。


 幹は木のように太く、葉は二人を覆えるほど大きい。


 イーサンはその植物へ目を向けた。


「……使えるな」


「まさか」


「まさかだ」


 二人は観葉植物の枝を掴み、慎重に伝って降りていく。


 葉が揺れるたびに体が振られた。


 リャンは必死にしがみつく。


「落ちたら死ぬぞこれ!」


「静かにしろ!」


 やがて二人は窓際へ辿り着いた。


 そこでイーサンが目を細める。


「……開いてる」


 窓はほんの少しだけ隙間が空いていた。


 風がカーテンを揺らしている。


 リャンは驚いた顔をした。


「入れるのか?」


「ああ」


 イーサンは慎重に隙間へ手を掛ける。


 人の生活の匂い。


 二人は顔を見合わせる。


 そして次の瞬間、小さな冒険者達は巨人の住処へ足を踏み入れた。




部屋の中は驚くほど狭かった。


 左側には簡素なベッド。中央には小さなテーブル。そして奥には背の低い棚が置かれている。


 生活感はあるが、どこか静まり返っていた。


 イーサンは周囲を見回しながら呟く。


「……一人暮らし用、って感じだな」


 リャンも小さく頷いた。


「ああ。家族向けって広さじゃない」


 窓際には洗濯物が干されたままになっており、誰かが急いで姿を消したようにも見える。


 二人が警戒しながら部屋を進んでいると、不意にリャンがイーサンの肩を軽く叩いた。


「おい、あれ見てみろよ」


 そう言って指差した先――棚の上には、黒い板のようなものが置かれていた。


 一般的な薄型テレビだった。


 しかし、それを見た瞬間、イーサンの足が止まる。


「……なんだ、あれ」


 彼は目を細め、まるで高価な芸術品を見るように近づいた。


 薄く、平たい。


 しかも妙に大きい。


 リャンが腕を組みながら言う。


「鏡……じゃないよな?」


「いや、違う。表面が黒すぎる」


 イーサンは慎重に棚へよじ登り、テレビの縁を軽く叩いた。


 コン、という乾いた音。


 彼は感心したように呟く。


「ここの住人は、お金持ちか何かかな」


「じゃないとありえないよ。」

 

リャンが尋ねる。


 イーサンはテレビを見上げたまま答えた。


「俺達の世界で“映像”っていえば映画館だけだぞ」


「……ああ」


「しかも貴族や金持ちしか何度も見に行けない」


 彼は苦笑する。


「それを個人で持ってるとか、意味が分からん」


 リャンも改めてテレビを見上げた。


「巨人ってのは、やっぱり色々おかしいな」


「同感だ」




 だが次の瞬間、リャンがふと顎に手を当てた。


「なあ?」


「ん?」


「これ、どうやってつけるんだ?」


 イーサンは一瞬ぽかんとした顔をしたあと、テレビを見上げた。


「さあ?」


「勝手に喋り出したようにしか見えなかったぞ」


「呪いの道具じゃないだろうな」


「やめろ、余計怖くなる」


 二人は少し距離を取りながら黒い画面を見つめた。


 するとイーサンが周囲を見渡し、小さく眉をひそめる。


「……ん?」


 テーブルの上に、細長い黒い物体が置かれていた。


 妙に規則正しい形。


 表面には小さな突起が並んでいる。


 リャンも気づく。


「あれじゃないかな?」


「それっぽいよな」


 イーサンは慎重にテーブルへ向かった。

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