3話
スマホのアラーム音で目が覚めた。
「……うるさ。」
目を開けると、見慣れない天井が視界に入る。昨日の出来事を思い出す。
「夢じゃなかったかぁ……。」
ひんやりした朝の空気が頬を撫でた。
駅前のバスターミナルで時刻表を見る。
「7時か。そろそろ来るじゃん。」
ベンチに座り、スマホを見る。
ママからの不在着信が何件も入っていた。
メッセージも届いている。
『どこにいるの?』
『せめて連絡して』
胸が少し痛む。
今電話をかけたら、多分すぐ帰ってこいって言われる。でも、ここで帰ったら、きっと私はずっとおじさんとして過ごすことになる気がする。
「……ごめん、ママ。今だけは許して。」
音を立てて目の前に止まるバス。私は複数の人達とともにバスに乗り込んだ。
走り出したバスの中で外を眺める。ビルや住宅街が建っている。しかし、走っていくにつれてそれは少なくなっていく。やがて周囲は山に包まれた。
やばっ。電波も悪くなってきた。
スマホのアンテナ表示は一本になり、数分後には完全に圏外になった。
「圏外……何しろって言うの?」
バスは山道をさらに進んでいく。
どれくらい経っただろう。私はただ外を眺めていた。山を抜け、街並みが姿を現す。
『次は、終点。境町、境町です』
「着いた……。」
バスを降りて周囲を見渡す。
「帰ってきた。この街の雰囲気。一年ぶりなのに凄い懐かしい気分……。」
古びた商店街。個人経営っぽい喫茶店。観光客らしき人々が見える。山に囲まれた普通の街。おばあちゃんが住む見慣れた街だった。
おばあちゃん家を目指し歩いていると、祭りの飾りを片付けている人達が見えた。
そういえば、毎年この時期になるとここへ連れて来られていた。ずっと、ただの帰省だと思っていた。
「……まさか、関係あるの?」
この祭りはある神社を中心に行われていた。それが私をそう思わせた。
鳥居の前で足を止める。綺麗に整えられた石畳の先に長い階段。上には神社が見えた。
昔は何も思わなかった。
でも今は、あそこに近づいてはいけない気がした。
「……怖くないし。」
強がるように呟く。でも足は、無意識に後ろへ下がっていた。
今は先におばあちゃんだ。
そう自分に言い聞かせて、私は神社に背を向ける。
次の瞬間、私は走り出していた。気付けば見慣れた景色が目に入る。
はぁ、はぁ。ここは……おばあちゃん家だ。もう嫌な気配は感じない。おばあちゃんならきっと何か知ってるはずだ。
「おばあちゃん! 来たよ。朱里だよ。」
玄関を叩き、そう声を上げるが反応はない。
私が玄関を叩くと、玄関が横にズレた。
え? もしかして開いてる?
私は玄関をスライドさせた。……開いてる。
「お、おばあちゃん? 居るの?」
そんなに大きくないおばあちゃん家を探索するが、人の気配はなかった。おばあちゃん何処にいっちゃったんだろう……。
私は小さな祭壇に近づく。そこにはおじいちゃんの遺影が飾られていた。
「久しぶりおじいちゃん。去年のお葬式以来だね……。出来れば自分の意思でおじいちゃんに会いたかったんだけど。こんな形になっちゃった。
おじいちゃんとの約束……」
「朱里来たのかい。」
突然、背後から声がして身を震わせ、振り返る。
「おばあちゃん!」
振り返った瞬間、おばあちゃんの表情が凍った。
「……その顔。」
おばあちゃんは震える声で言った。
「なんで、あの人と同じ姿になってるんだい……。」
「あの人?」
おばあちゃんはおじいちゃんの遺影を見た。
「何故、来なかった?」
「え?」
「祭りになんで来なかったと聞いてるんだい!」
「……。」
「はぁ……。神社に行くよ。」
そう言いおばあちゃんは強く私の腕を掴んだ。
「いっ、痛い!!」
腕を振り払う。
「説明してよ! なんでこんな姿になったのか。なんで毎年ここに来なきゃいけないのか。全部、説明して!」
「説明は移動しながらだ。早く足も動かしな。」




