2話
新幹線が動きだし、私は席に向かえないでいた。
私の馬鹿。本当に戻れなくなっちゃったじゃん! もう〜なんでいつも私はこうなの?
いや、ここまで来たんならとことん全力で行ってやる。
一つ大きなため息を吐く。まずはおばあちゃんに連絡しなきゃ。
手に持っていたスマホにはおばあちゃんの連絡先。
一度。二度。三度。
出ない。なんでよ。いつもは優しいおばあちゃん、でも、いつもこの時期になると少し怖い。
怒ってるのかな? 着いたら謝らないと……。
私は席に向かう。座ると窓の外を眺めていた。
もう真っ暗……。ほんと、馬鹿。
えーと、所持金は……。
うん。結構あるかな。バイトしててよかったぁ。最悪口座から下ろせばいいし。困ることはないかな。
あとはご飯だよね。1時間ちょいくらいで着くらしいから、長野着いてからでいいかな。
「お姉ちゃん。大丈夫?」
園児くらいの男の子が顔を覗き込む。
え? 私?
「こら、エイジ。出歩かないで。すいません。行くよ。」
「うん。バイバイ、お姉ちゃん。」
「何言ってるの? 男の人じゃない。」
親子の会話が聞こえなくなっていく。
……気づいてた? いや、そんなわけない。
子供ってたまに意味分かんないこと言うし。そう自分に言い聞かせても、胸のざわつきは消えなかった。
次の駅に停車する。乗客が乗り込んでくると、その中の一人の女性が、私の隣で足を止めた。
「あの、隣いいですか?」
「はい。大丈夫ですよ。」
女性が隣に座る。凄い美人だな。いいなぁ、私もこんなスラッとした体型に……。
「あ、あの……私どこか変ですか?」
やばっ。見すぎた。
「すいません。綺麗な人だなと思って。」
「ふふ、ありがとうございます。」
しばらく沈黙が続く。き、気まずい。
「旅行ですか?」
女性から質問が飛ぶ。
「え? はい。ちょっと用事で長野まで。」
「長野!? 偶然ですね。私も一緒です。」
やばっ。この人の笑顔、めちゃ可愛いんですけど。待て、冷静になれ私。私は女だぞ。
「へ、へぇ〜。そうなんですか。観光で?」
ぎこちない返事を返す。
「いえ、実家に帰省しているんです。」
「長野のどちらまで?」
「境町に。」
女性の笑顔が少しだけ固まった。
「……境町?」
「はい。」
「あ、すみません。ちょっと珍しいなと思って」
「珍しい?」
「観光で行く人、あまりいないので。」
「あー……まぁ観光ではないですね。」
「ご家族のところですか?」
「おばあちゃん家です。」
「……そうなんですね。」
そこからは他愛もない世間話が続いた。
『まもなく、長野〜長野〜』
気付けば車内アナウンスが流れた。
「あっ。もう着いちゃいましたね。」
女性は立ち上がり荷物を持つ。
「話し相手になってくれてありがとうございました。」
「い、いえ!」
「あっ。最後にもしこの辺のホテルに泊まる気なら、高いのでネカフェをお勧めしますよ。それじゃ! また。」
そう言い女性は降りていってしまった。
親切な人だったな。21時半か……。やっぱり今日行くのは無理かな。ネカフェか。
えーと。ここかな? こういうところも初めて入るから緊張するなぁ。
「いらっしゃいませ。ご利用は初めてですか?」
「は、はい……。」
「身分証をお願いします。」
「え?」
心臓が跳ねた。……待って。写真、どうなってるの? 元の私だったら詰むんだけど。
恐る恐る財布を開く。そこに写っていたのは、おじさんの顔だった。
良かった。安堵のため息を吐き、身分証を出した。
案内されたのはフラット席という種類の部屋だった。意外と広いのね。床も柔らかいし、これはあの女性に感謝かな。
スマホを見る。おばあちゃんからの返信は、まだない。
今日だけで人生が全部変わった。朝までは普通の女子高生だったのに、今は知らない土地のネカフェで一人。しかも、おじさんの姿で。
「……ほんと、何してんだろ私。」
思わず笑ってしまった。
でも、不思議と後悔はなかった。
明日になれば元に戻れるはず……
そうなれば全部笑い話になるのかな?
知らない土地に来たはずなのに、少しだけ明日が楽しみな自分がいる。
あの綺麗な人の笑顔が頭から離れない。
私は毛布を被り、静かに目を閉じた。




