1話
私は朱里、ごく普通の女子高校生
のはずだった。
「え? なんで私男になってるの〜!!」
朝、起きるとイケメンのおじさんになっていたのだ。
「なにこれ? 夢? ……そうよ、そう! きっと夢よ。もうお昼だけどGW中だしいいよね? 寝ましょ、寝ましょ!」
「……。」
声太っ。
良くできた夢ね。私は優しく頬をつねった。
痛い。
頬硬ぁ、まじで男になってるっぽい? まじ最悪……。
それに、夢だとしても私以外がこのベッドで寝るなんて最悪。友達ならまだしもよく分からん男とかイケメンでも無理だわ。
てか、そろそろママたち帰ってきちゃうしバレたら最悪お縄になっちゃう!!
とりあえず家出るか。でも、どの服で? 私の服は無理、メンズなんて持ってないもん。パパの? そうだ、そうしよう。
こうして、私は机に置いてあるスマホをポケットに入れ、自室を出た。瞬間、玄関が開く音が耳を刺す。
やらかした。ママたちがおばあちゃん家から帰ってきた!!
どうしよう。隠れる? いや、見つかったときもっと大変じゃない? 外に出るにしても私の部屋着じゃ外出歩けないし……。よし、やり遂げてみせる。私ならやれる。
ミッション1 パパの部屋に行き服を盗め!
これなら行ける。パパは普段、部屋を使わない。入るのは楽勝!
私は全力疾走で廊下を走りパパの部屋へ駆け込む。ドアを閉める瞬間、2階に上がる母の姿が見える。
え? バレてないよね。なんでここにいるのよ。なんであの人はいつも足音が小さいの??
「朱里、帰ったわよ。」
ママが私を呼ぶ声が2階に響く。
良かったバレないみたい。早くパパの服に着替えてどうにか家を出ないと。
ミッション2 家族にバレずに家を出ろ。
さて、どうしようか。パパの服には着替えられたけど難問はここから。ここは2階だから窓から降りるのは怖いし……。どうにかして1階に降りたいけど。
あれ? やけに静かじゃない? なんで。パパも葵もいるはずなのになんで?
すると、外から物音がし窓から外を覗くと車があった。そこには家族みんなの姿がある。そうだ、旅行から帰ってきたばっかりだから荷物が沢山あるんだ!
チャンス!!
今なら裏口から逃げられる。私は一度深呼吸をして、パパの部屋を後にした。
走れ、走れ。階段を駆け下りて、開いた玄関を無視する。台所に向かえ!
そう思い、玄関に背を向けた瞬間
「にぃちゃん。何してんの?」
私は見つかった。
「え?」
ミッション2 失敗
「待って、叫ばないで!!」
必死な私を見て妹の葵は冷たく言葉を吐いた。
「何寝ぼけてんの? 早くにぃちゃんも荷物運ぶの手伝ってよ。」
にぃちゃん?
私が?
「は・や・く・手伝って!!」
そういい葵は車へ戻っていった。
「……。」
待って、ちょっと待って!
おかしいでしょ。
なんであの子、知らないおじさんにそんな普通に話しかけてるの?
震える手で自分の頬を触る。
硬いし、大きい。
知ってる。さっき嫌というほど確認した。
問題はそこじゃない。葵が普通だったことだ。あまりにも普通だった。不審者を見た反応でもなく、まるで最初から私が男……お兄ちゃんだったみたいに。
絶対におかしい。私は玄関で自分の靴を履こうとする。
小さい……。履けない。
私は視線に入ったサンダルを履き外へ出た。
「あら、朱里。手伝ってくれるの?」
「おう、ただいま。朱里、お土産買ってきたぞ。」
なんで、なんでよ。なんでみんな普通に接するの? 私いま私じゃないのに。
「待ってよ。私男なんだよ?!」
それを聞いてパパとママは首を傾げる。
「何言ってんだ。お前は前から男だろ。しっかりしろ。さては、寝ぼけてんな?」
……前から? そんなはずない。
なんでそれが普通みたいになってんの?
そうだ、友達ととった写真があるじゃん。
ポケットに入れたスマホを取り出しアルバムを見る。
「私の写真がない……。」
そこにあったのは記憶には確かにある友達との写真。しかし、写っているのは私ではなくおじさんの姿だった。
なんで、このときはまだおじさんじゃなかったじゃん! なんでおじさんが居るの?
「ほら、荷物も運び終わったから中に入るわよ。朱里も来なさい。」
ママは玄関からそう言った。
「じ、じゃあ。あの部屋はどう説明するの? あんな可愛らしい部屋男の子ならしないよ?!」
自室の部屋はさっき見た。なんの異変もなくいつもの可愛らしい部屋……私の部屋。
「本当、今日変よ? 大丈夫?」
「質問に答えてよ。」
「あなた、昔から可愛いものが好きだったじゃない。そういう男の子だったでしょ。」
「……。」
「ほら、中に入りなさい。」
納得いかない。絶対におかしい。
私は自室に戻りスマホを開く。
『目が覚める 男 なぜ?』
『周囲の人 男 勘違い なぜ?』
色々調べた。ネットでの怪奇現象を中心に調べ尽くした。気付けば夕暮れ時、私は部屋の電気をつけた。
床には乱雑な数々の物。机の上に置かれたスマホは光を放っていた。
持ってる卒業アルバムや写真は全て男に置き換わっていた。……似た境遇の怪奇現象もないことはないけど役に立たない……。
最後に、役に立つとは思えないけど……一応ね。私は質問サイトを開く。そこは日常の疑問や悩みを質問し他のユーザーが回答するというサイトであった。
『至急 起きたらおじさんになってたんですけど助けてくれませんか?』
初めてやるけど……こんなのでいいのかな? 細かい設定とか知らないし、適当でいいか。投稿っと。
大丈夫かな?
待つこと数分
スマホが震える。
「え? もう返信来た!!」
私は画面を開いた。
【回答1】
釣り乙。もっと設定考えよ?
釣りか……。確かに、このタイトルじゃ釣りにも見えるか。変える? ……いや、これでいい。
【回答2】
病院行け。
はいはい、次。
【回答3】
知り合いも似たこと言ってたけど、普通に精神的なやつだった。
……大丈夫。私はおかしくなんてない。
私はベッドに倒れ込んだ。
「そうだよねぇ……。信じるわけないか。それにしてもバンバン回答来るな。もう6件って……みんな面白がってんのかな。」
流すようにそれを見ていると一つの回答が目に留まる。
【回答5】
その話多分知ってるかも。
「え?」
私は勢いよく体を起こす。
【回答5】
昔、似た話聞いたことある。
山の方の村で、決まった日に神様へ供え物をしなかった女が醜い姿に変えられたって話。しかも周りは誰も気づかなくて、本人だけ元の姿を覚えてたらしい。
最後は山に入ったまま帰ってこなかったとか。
まぁ都市伝説だし作り話だろうけど。
指が震える。
「この話部分的だけど私と似てる。全然醜くはない、むしろ無駄に整ってるけど。周りからは気づかれなかった。」
今年だけ、私は行かなかった。毎年GWになると、理由も知らされないまま連れて行かれるおばあちゃんの家。今年だけ、私はそれをサボった。
「……まさか。」
背筋が冷たくなる。
スマホを握りしめる。
「知らない。違うかもしれない。でも……」
スマホに映る知らないおじさんが、私を見返していた。
「このままなんて絶対嫌。」
私はクローゼットを開けた。
「そうだ……メンズ服ないじゃん!!」
数秒沈黙する。
「もういい。このパパの服で行く。」
財布を掴む。スマホをポケットに突っ込む。
「神様だか呪いだか知らないけど返してもらうから! 私の人生。」
行き先は――境町のおばあちゃん家だ。




