第39話 ……逮捕?
思った通り現れた。
「今日は最初から姿を見せるのね。髑髏どくろ仮面」
「……せっかく『ファンタズマ』って名前つけたのに、髑髏仮面かよ」
「ねぇ? あなたは魔物なの?」
「さあ。正直、自分でもよくわからないんだ」
「私のこと、異世界から来たって言ってたけど、あなたは未来から来たとか?」
悔しいが、誘導された感じがずっとしていた。先を知っている感触。
こいつに会わなければ、村を救う方法を思いつかなかったのは確かだし。
「面白い。まあ、ここまでは何回もやったからね。確かに少しは未来を知っていると言っていいかもな」
「はは。なにそれ?」
ややこしい言い回しが、この国の人は好きなのか。
立ち上がろうとして、少しふらついた。晩餐のお酒に酔ったのか、この領地の未来に足がすくんだか。
「今回は予想外に活躍してくれてありがとう。さすが、第三皇子の夫人の中で一番の行動力だ」
髑髏はふらつく私を抱き寄せ、転びそうになるのを助けてくれた。思わず、その腕にしがみついた。
そのマスクが近いけど、月を背にされ顔が見えない。……いや、なんか目をそらしてしまった。
「……近ぃ」
「失敬。お許しを」
顔が熱いのは酔っているから。私、第七夫人だし。人妻。旦那さまに会ったことなくてもね。
すぐに離れて、何もついてない服のゴミを手で払う。予想外に手に汗をかいているな。
「ところで、君に訪れる未来も少しだけ語っていいか?」
「いいわよ~? 第三皇子の正室になるとか?」
「今のところ、そのルートはない。まずは君たち全員が死なない未来を選択するのが、僕の希望だ」
「はあ? あんな危険な目に遭わせておきながら?」
よく言うわ。うっかり口車に乗ったが、そもそも村を救うことも、この髑髏に何のメリットがあるというのか。
「本心だ。おっと、もう時間がないから行くぞ」
「待て待て? 私の未来は?」
「ああ、それだ。君、この後、逮捕されるけど、驚かないでね?」
……え?
「死刑になるけど、それは間違いなんだ。だから落ち着いて。そうすれば三食昼寝付きだから」
……死刑?
「ちょっ……と待って?」
「いたぞ! あそこだ!」
中庭に見たことがない男たちがランプを片手に現れた。当直の護衛武官が抗議したが、押し切られている。
振り返ると髑髏仮面は消えていた。
◇
「なになに? 誰、この人たち」
「帝警です。アニカ妃殿下さまですな?」
「はい? そうですが」
「逮捕状が出ています。帝都までご同行ねがいます」
……。
私の手首に枷が嵌められた。
おいおい、マジか? マジ逮捕かよ?
いや、髑髏も言っていた。落ち着いて対処だ。
「貴重な皇室財産を勝手に安価で売却した罪です」
「貴重? は。全然お金にならなかったわよ? 絵皿も、変なおばさんの絵も」
「……な、なんとおっしゃいましたか?」
「絵皿も、おばさんも、お金にならなかったの。私たち、領内の村を助けたくて、その為にお金が必要だったの。なんなら、サイファの村長に聞いてくれない?」
「妃殿下。あれは現皇妃さまの肖像画です」
「……皇妃? ……さま?」
「皇妃さまをおば……オホン。帝室に対する不敬の現行犯も追加ですな。言い逃れできませぬぞ?」
ねぇ。これ、落ち着いていられる?
──次の三食昼寝付き生活は唐突に始まる。牢屋で。
(了)




