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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第3部】封じられた秘めたる想い
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差し出す命

<第7章 本当の気持ち>



 桜の大木の前に降りると、すぐそこに桜理がいた。

 どこか不安そうな表情をした彼女の瞳は、複雑に揺れている。



「本当に……来たんだ。」



 桜理がぽつりと呟く。



「当たり前だろ。」



 言いながら、実は桜理を見つめて苦笑を漏らした。



 桜理から濃密に漂う死の気配。

 少し会わない間に、また一段と強くなったようだ。



 あと、彼女はどれくらいの命なのだろう。



 死なせたくない。

 絶対に。



 突き上げる衝動に突き動かされるように、桜理を抱き締める。

 抵抗されるかと思ったが、予想に反して桜理は動かなかった。



 この温もりには、もう触れることすら叶わないだろう。



 でも、それでいい。

 少しの間でも、こうして桜理とまた過ごせただけで満足だ。



 不思議なくらい、未練も後悔もなかった。



「絶対に助けるから。」



 固い決意を胸に、実は自分と桜理に言い聞かせる。



 息を飲む桜理。

 実はそんな桜理の額に、軽く口づけを落とす。



 心の名残惜しさとは裏腹に、体はあっさりと桜理から離れた。



 ―――もう、覚悟はできている。



 実は桜理を一切振り返らずに、桜の木のすぐ下まで歩いた。



「………」



 見上げた桜は、ただ風に揺れるだけ。



 同調していない今、桜の声は聞こえない。

 桜は今、どんな心境で自分のことを見下ろしているのだろうか。



 実は片手をひらめかせ、手の中に魔力を集める。

 魔力は自分の意志に応えて、淡い光を変形させると一本のナイフに姿を変えた。



 自分が桜理の身代わりになるには、桜に自分のことを襲わせなければならない。

 ならば、やることは一つ。



 実はナイフの()をぐっと握り、躊躇(ためら)いなく自身の腕を切りつけた。



 パッと赤い線が腕に走り、みるみるうちにあふれた血が(ひじ)を伝って地面へと落ちていく。





 ―――ドスッ





 ふいに響いた、不吉な音。



「………?」



 何が起こったのか分からなかった。



 血が木に落ちた瞬間、後ろから肩を貫いた衝撃。

 何の予兆もなかった。



 あまりにも突然すぎる奇襲に、実は数秒呆けることになる。

 その中でも無意識に動いた目が、ゆっくりと肩口を映した。



 背後から、木の根が肩を貫いている。

 その根は真っ赤に濡れていた。



 その赤が自分の血であると認識した瞬間、五感が戻ってきて激痛が火を噴いた。



「うぐ…っ」



 よろけた実の体を、地中から伸びた根が容赦なく突き刺す。

 肩、腕、足と、急所からずれたところに次々と。



 とうとう立っていられなくなって、実は地面に倒れた。



「やれやれ、よくやりおるわ。」



 頭の中に声が響いた。

 妙に()(だま)していて、まるで幻聴か夢のようだ。



「これこれ、幻聴ではないぞ。今は(われ)の根が(うぬ)の体内にある故、同調なしに我の声が聞こえるのだ。汝も(おろ)かじゃのう。普通、一人の人間のためにここまでするものか?」



(うるさいな……少なくとも、俺はそうだよ。)



 声には出さず、心の中で呟いた。

 それに対して、桜は軽やかに笑う。



「弱っても、口だけは減らぬ奴だ。前も言ったとおり、(われ)(うぬ)が気に入っておる。汝が自分を犠牲にすることを選んだのなら、我はそれに黙って協力しよう。今、我が吸収する血以外には余計な血が流れないようになっている。それに、痛覚も麻痺させておいた。これは、ささやかな我の情けだ。」



 言われて気付く。



 確かに、痛みを感じない。

 感じるのは、脱力感と眠気だけだ。



 実は、静かに目を閉じた。



(情けをかけるなら……せめて、一発で()ってくれよ。)

「それでも別に構わぬがな。よいのか?」



 桜が意味ありげに問う。



(……どういう意味?)



(うぬ)が一気に死んでしまうと、我は力を吸収できぬぞ。完全に死んでしまえば、汝が持っていた力は我が吸収するよりも前に消えるからな。もしかしたら、桜理の命をまかなうだけの力を吸収できないかもしれない。」



(じゃあ、これでいい。)



 実は即答する。



「あっさりしているな。」



 桜が笑う。



 死ぬ間際だというのに、なんという間の抜けた会話だろう。

 桜の笑い声につられて、実も疲れたように笑った。



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