表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第3部】封じられた秘めたる想い
144/1258

全てが止まった空間

 不安げな詩織を玄関に残し、拓也は廊下へと足を下ろした。

 廊下を奥まで進み、途中で九十度に折れ曲がる階段を上がる。



 階段から伸びる廊下をさらに奥へ進み、廊下の一番奥の部屋―――どこにでもある、木製のドアの前で止まった。



 止まって、一瞬躊躇(ためら)った。



 必死に保っていた平常心が跡形もなく消え去り、濃度の高い不安が瞬く間に心を覆っていく。



 ここまで来て怯むな。

 実が危ないかもしれないのだから。



 ドアノブを険しい目つきで睨みつけ、拓也は躊躇(ためら)いを振り切ってそこに手を伸ばす。

 しかし、ドアノブを下ろした瞬間に返ってくるのは鍵の抵抗。



 拓也は一度手を離して、ドアノブを軽く指で弾く。



 ―――ガチャリ



 鍵の開く音。

 もう一度ドアノブを下ろすと、微かな音と共にドアが細く開いた。



 脳裏を支配する緊張に、ドアノブを握り締める手がピタリと止まってしまう。



 中を見なければ。



 そう思うのに、それと同じくらい中の様子を見たくない。

 悪い想像ばかりが頭の中をよぎってしまう。



(だめだ、躊躇(ためら)うな。)



 自分にそう言い聞かせ、拓也は思い切り頭を振った。

 そうしながら腹をくくり、ドアを押し開ける。



「―――っ!?」



 その瞬間、息を飲んで立ち尽くすしかなくなってしまった。



 部屋の中は、綺麗に整っていた。

 何にも触れられた形跡がなく、誰かが部屋の中を動き回った様子も見られない。



 この部屋の中に、一週間もの間実がいた。

 その事実が、この整った部屋を異常たるものに変えてしまう。



「う…」



 込み上げてきた吐き気をこらえて、口元を手で覆う。



 何よりも、ここは空気が異常だ。

 空気が一切動いていないような、こもった香りがする。



 まるで、人々に忘れ去られた結果、時間すらも停止してしまったかのような。

 そんな暗く(よど)んだ空気に息が詰まる。



 ―――ここは、人がいていいような場所ではない。



 心の奥底からそう思った。



 ここの空気を吸うほどに、全身が重くなるような錯覚さえしてくる。

 気付けば、自分の呼吸が荒くなっていた。



 そして―――肝心の実はというと、毛布を下半身にかけた状態でベッドに座り、窓越しに外の景色をぼんやりと眺めていた。



 その目は焦点が合っておらず、五感や意識も定かではないのか、こちらが部屋に入ってきたことに気付く様子もない。



「実…」



 どうにか呼びかけるも、それは(あえ)ぐような声にしかならなかった。



 実はゆっくりと振り返り、こちらを見て……





 そして―――微笑(わら)った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ