自分と同じだとしたら……
「今日で一週間、か……」
誰に言うでもなく呟いて、拓也は目の前に建つ家を見上げた。
屋上での会話の後、家に帰ると言い出した実を、自分は素直に見送った。
その翌日から、実は学校を休み続けている。
明らかに気落ちした香りを漂わせる後ろ姿を最後に、自分は実の姿を一週間もの間見ていない。
たったの一度もだ。
「……はあ。」
拓也は一つ息をつく。
いつもの実なら、多少落ち込んでも一晩もすればけろりと調子を戻してくる。
そうすることで、周りに気を遣わせないようにしているのだ。
それが気にはなっていたが、実本人が大したことではないと言って譲らないので、これまでは引かざるを得なかった。
しかし、今回はどうだろうか。
普段の何倍もの時間をかけても、実の調子は戻らない。
それどころか、悪化の一途を辿っているように思える。
身代わりの影を送ることもせず、正直に不調を示すように学校は休み。
携帯電話に連絡しても、電源が切られているのか全く繋がらない。
この状況は、胸に渦巻く不安を嫌でも増幅させた。
まさか、正常を装う気力すらないのか?
そんな疑念と不安を日に日に募らせながら、どうにか耐えて一週間。
我慢の限界なんて、とっくのとうに超えている。
我ながら、よく耐えた方だ。
一週間も待っていられた自分に感心する一方、些か心配性すぎる自分に軽い自己嫌悪を覚えた。
本当は、実の家に押しかけるのはできるだけ避けようと思っていた。
いくら心配だからといって、そこまでして誰かの心の中に無理に踏み込むのは、やはりいい気がしないからだ。
特に、今回の実は今まで以上に事情を話すことを拒んでいた。
なんだかんだと押しに弱い実があそこまで口を閉ざすのだから、よほど触れられたくない事情があるのだろう。
そういう気持ちには、自分も痛いほど共感できる。
だから、電話でもメールでもいいから連絡さえ取れれば、深くは追求しまいと。
そう決めていた。
今こうして実の家に訪れているという実力行使は、最悪な状況に近い。
「どう話したもんか……」
重たい溜め息が再び口をつく。
一週間前の言動から察するに、実が過去に深い傷を抱えていることは間違いない。
悲しい〝鍵〟の運命を背負っている実だ。
むしろ、それくらいの傷を負ったからこそ記憶と魔力を封じたという経緯の方がしっくりくる。
(だから、心配だったんだよ……)
普段は気丈に振る舞ってはいても、過去に眠るトラウマはいつだって心を苛んでくるものだ。
そこでどんなに理づめにして理性を納得させても、心が訴える激情が衰えることはない。
どんなに我慢したって、その激情はいつか心からあふれて、何もかもを奪っていこうとする。
自分は、そのことをよく知っている。
だからこそ、不安は余計に煽られて―――
「………っ」
今の実が、自分と同じ状況だとしたら……
そう思うと、無意識で拳に力がこもった。
胸の中で鎌首をもたげる、どす黒い感情。
それに飲み込まれそうになるのを、奥歯を噛み締めてどうにかやり過ごす。
「よし。」
一息で気持ちを整える。
門を開いて、奥の玄関の前に立つ。
次に、ドアの横にあるインターホンを大きな緊張感を持ちながら押した。
無機質に響く呼び出し音。
インターホンを押した後で誰も出ない可能性を考えたのだが、予想に反してドアはあっさりと開いた。
出てきたのは、実ではなかったが。
「あら……実のお友達、かしら?」
家の中から出てきた女性は、拓也に問いかけながら首を傾げる。
綺麗な女性だ。
細身で身長はやや高く、全体的にさっぱりとした印象を受ける。
髪は肩辺りでばっさりと切り揃えられており、丸い吊り目には力強さが感じられた。
「………」
その女性を前に、拓也は言葉を失う。
「―――あなた、何者ですか。」
しばらくしてその口から漏れたのは、到底初対面の相手にかけるものとは思えない言葉だった。




