記憶に揺れるあの子
<第2章 蝕まれる心>
思えば、あの子はいつも笑っていた。
いくら俺が他人に比べて笑わないタイプだからといっても、それは言いすぎという表現ではなかったと思う。
そして……あの子は、こんな俺にも笑いかけてきた。
こいつには、悲しみや苦しみといった負の感情がないのだろうか、と。
あふれんばかりのあの子の笑顔に、俺は薄気味悪ささえ感じていた。
―――正直、苦手だった。
あの子は、俺が失ったものを全て持っていた。
そのことが、俺にとてつもない圧迫感と劣等感を与えていた。
色んなことを知ったからこそ、今まで生きてこられたんだ。
そのことを恥じるつもりはないし、間違ったことをしたとも思わない。
だけど、何も知らないこいつがどうしようもなくまぶしく見えて、胸が苦しくなるのはなんでなんだろう…?
あの子を見る度に、俺はどうしようもなく自分のことが嫌いになった。
だから、自分を嫌いにさせるあの子のことも、もちろん嫌いだった。
……少なくとも、最初はそうだったんだ。
鬱陶しくて、不愉快極まりなかったあの子の笑顔。
今思い返すと、本当はああやって笑えるあの子のことが、とても羨ましかったのかもしれない。
あの子の笑顔と共に流れていく時間は、俺の心を優しく、そして残酷に溶かしていった。
あの子と過ごしているうちに、いつしかその笑顔を大切に思うようになっていた。
そして、あの子の笑顔は決してなくならないと、疑う余地もなくそう思い込んでいた。
でも―――
あの子を最後に見た時―――あの子は、泣いていた。




