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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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エーリリテの想い


「実!!」



 慌てて駆け出した拓也が、実が倒れるよりも前にその体を受け止める。



 気を失ったらしい実は、顔面蒼白ながらも呼吸は穏やか。

 胸も一定のリズムで上下している。



 グランに刺された時はどうなるかと思ったが、彼が施した治癒魔法のおかげか、死ぬようなことはないと見て間違いない。



「あいつ……素直に引っ込んだのか…?」



 ほっとしたが釈然としない。

 複雑そうな拓也の表情から、そんな心の声が聞こえてくるようだった。



「みたいだな。何はともあれ、事なきを得てよかった。グランもちゃんと息をしてる。」



 グランの様子を確かめていた尚希が、ほっと安堵の息をつく。

 尚希の言葉を聞いて、拓也も無意識に全身に込めていた力を抜いた。



 その時ふと、実を抱く拓也の前に何かが立ちはだかる。



 拓也が顔を上げると、そこには神妙な面持ちで実を見下ろすエーリリテがいた。

 彼女は固く唇を引き結んで目元を険しくすると、実に向かって手を伸ばす。



 静かに近付いてくる細い指先は、一体何を目的としたものか。



「………っ」



 エーリリテの剣幕に触発された拓也は、思わず実を抱く腕に力を入れ直す。



 厳戒態勢の拓也の前で、眠る実の頬に手を添えたエーリリテは―――しおらしく眉を下げた。



「この子、普段はふてぶてしいから実感が湧かなかったけど……本当に、厄介なものを抱えて生まれてきちゃったのね。」



 重々しくエーリリテが告げると、拓也と尚希が瞠目して息を飲んだ。



「エーリリテ……お前、知ってたのか?」



 何について、とまでは訊く必要などなかった。

 尚希の問いに、エーリリテは小さく頷く。



「知ってるわよ。実と知り合ってすぐの時、家族に嘘はつきたくないからって、エリオス本人が説明してきたもの。天地がひっくり返るって、あの時のことを言うのよね。」



 苦笑を呈し、エーリリテは実の髪をなでる。



 微笑む彼女からは、実を傷つけるような雰囲気は()(じん)も感じられなかった。

 そこから漂ってくる香りにも、敵意を思わせるようなきつさはない。



 エーリリテが実の敵に回ることがないと判断できた拓也は、今度こそ脱力して肩を落とした。



 尚希も、無意識でつめていた息を大きく吐き出す。



 そんな二人の反応に、エーリリテは少し唇を尖らせて抗議的な目を尚希に向けた。



「何よ…。私が実を殺そうとするとでも思った?」



「悪い。ちょっと疑った。この世界じゃ、事情を知ってて実の味方につける人間は極端に少ないからさ。」



 正直に白状する尚希に、エーリリテは渋い顔を隠せずにいるようだった。

 尚希の言葉は、否定しようのない事実だからだ。



「そりゃ、内心は複雑よ。でも……」



 尚希から実へ視線を戻したエーリリテは、その顔に再び柔らかい微笑をたたえる。

 そして―――



「この子に罪はないのよね。まったく、一人で無茶しちゃって…。なんだかんだ、私も父さんも兄さんも、あんたのことを可愛いって思ってるんだから、少しは頼りなさいよね。お馬鹿。」



 実本人が聞いている状況では絶対に言えないだろう言葉が、その唇から(つむ)がれた。



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