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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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〝鍵〟を殺す呪い


「お前…っ」



 (うめ)いた拓也の声に反応して、地面に倒れたグランを無感動に見下ろしていた実が、ゆっくりと首を巡らせる。



 緊張の面持ちの拓也と尚希。

 困惑顔のエーリリテ。



 それぞれ見やり、実はその顔にまた笑顔を浮かべた。



「あ、この間殺されかけてたお兄さんだ。僕と話すのは、久しぶりだよねー。」



 倒れるグランには目もくれず、実は拓也にひらひらと手を振る。



「そんなのはどうでもいい! お前、グランのこと…っ」



 拓也は余計に表情を険しくし、厳しい口調の言葉を叩きつけた。



 実があの子供に体を乗っ取られていることには、とっくのとうに気付いていた。

 だが、色々とおかしい。



 あの子供は、実が記憶と魔力の封印を解くと同時に消えると。

 過去にエリオスの影と話していた時、他でもない本人がそう言っていたはずだ。



 それなのに、どうして今も彼が存在できているんだ…?



 疑念はわだかまるばかりだが、今最も重んじるべき問題はそこではない。



 実の体を奪った彼は、興味なさそうにグランを見下ろし、再び拓也たちに視線を戻す。



「大丈夫。殺してはいないよ。思い出せないって言うならちょうどいいし、記憶を消しといただけ。ついでに、このお兄さんの血に眠る暗示を抑え込んどいたの。なんかある度に刺されるんじゃ、めんどくさいしね。」



「……暗示?」



 拓也が繰り返すと、彼はにやりと笑った。



「そう。〝鍵〟を殺そうって世界で決めたからといって、最初から今の慣習みたいに、誰もが疑わずに〝鍵〟を殺せたと思う?」



 唐突に問われ、拓也たちは沈黙する。



 その沈黙が答えを導き出せないが故のものではないことを分かっているらしく、彼は返答を待たずに一つ頷いた。



「お察しのとおり。やっぱり最初は〝鍵〟をかばう人たちがいたのさ。そんな人たちは捕らえられて、血に呪いが植え付けられた。それがこの暗示ってわけ。」



 そんな暗示があったなんて。



 言葉を返せない拓也たちを歯牙(しが)にもかけず、彼は淡々と先を続ける。



「この血を受け継いでいる人は、〝鍵〟と認識できる人間を見つけた瞬間に、自分の意志とは関係なくその人を殺すんだ。多分、さっきライオンさんと力比べしてた時の余波で、このお兄さんの暗示が発動しちゃったんだろうね。今じゃもう、どこにこの暗示を持った人間がいるなんて分からない。……まったく。〝鍵〟も生きにくい世の中だよねぇ。」



 彼は嘆かわしげに肩をすくめる。



 拓也と尚希は相変わらず警戒心と(さい)()心がない交ぜになったような表情で、油断せずに彼をじっと見つめるだけだった。



 そんな二人の様子をしげしげと眺めていた彼は、侮蔑と呆れを感じさせる大仰な溜め息を吐き出す。



「ほんと、僕って嫌われてるよね。殺してないって言ってるのに。」



 倒れているグランを横目に見て、ふとその体の上に手をかざす彼。



「それとも……ご希望どおり、殺しちゃえばいいのかな?」

「―――っ!!」



 途端に、拓也と尚希が臨戦態勢に入って身構える。



 当然といえば当然の反応なのだが、彼にはそれが面白かったようだ。

 ふっと小さく噴き出した彼は、くすくすと笑い声をあげた。



「あはは、本当に素直なお兄さんたちだよね。心配しないでも、体はすぐにあの子に返してあげるよ。さっきのはさすがに、一人じゃ対処できなかったでしょ? 止血するのも忘れて、ぼーっとしちゃってさ。僕が代わらなかったら、死んじゃってたかもよ?」



 腰をぽんぽんと叩いて、実の体を借りた悪魔が(わら)う。



「………」



 拓也たちは厳戒態勢を崩さない。



 このまま彼が気の(おもむ)くままに過ぎた行動に出ようとするならば、たとえ実と戦うことになっても止める心づもりだった。



 実を傷つけることになったとしても、結果的にはそれが実を守ることに繋がるのだから。



 実力行使も辞さない拓也たちの様子を、彼は黙って見つめている。



 敵対するわけでもなく、逃げるわけでもない。

 ただじっと、目に映るものを無感動に観察しているだけだった。



「お兄さんたちって、素直だし馬鹿だよね。僕たちに関わるだけで、棺桶に片足を突っ込んでるようなもんなのにさ。」



 感情のこもらない無機質な声が、薄く開いた唇から零れる。





「そんで……―――この子は、本当に幸せ者だ。」





 彼は淡く微笑んで目を閉じる。

 すると、その体から(ほとばし)っていた強力な魔力が一気に弱まった。



 その明らかな変化に拓也たちが眉をひそめるのと、実の体が支えを失ったのは、ほぼ同時だった。



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