面影に見る彼は、もう―――
「―――ははは…っ」
長い沈黙の末。
唐突に、ディライトが笑った。
「ルティ君…。君……最初から、私に世界を創り変えさせるつもりなんかなかっただろう?」
「そんなことはないけどなぁ。」
「どの口が言うんだい。」
「えー…。ここまでやってるのに、信じてくれないの?」
ほら、と。
実はディライトに剣を差し出す。
ディライトはその剣に触れると―――そっと、それを実へ押し返した。
「私には、受け取れないよ。ルティ君の言うとおり……私は、キリナミを殺すことなんてできないから。」
どこか寂しげに。
ディライトはそう告げる。
「やっと認めた。この頑固者。」
「君に言われたくないな。リンドルでの君も、記憶で覗いた君も、大概暴走列車だったじゃないか。」
「まあ、確かに…。チェイレイの城では、腹いせに散々ひどいことをしてやったなぁ。ディライトがやらなかったら、俺がチェイレイの奴らを皆殺しにしてた自信があるもん。というか、その一歩手前までいったんだけどさ。」
「そうなのかい? なんか、君が怒った姿って想像つかないな…。ここまでのことをした私を前にしても、微塵も怒ってないし。」
「え? 怒る理由がある?」
ディライトの言葉が意外で、実はきょとんと瞼を叩く。
「そりゃ、正しいことをしたとは思わないけどさ。そもそも、ここまでディライトを怒らせたチェイレイの奴らが悪いって話でしょ。」
実はそこで、ふと唇を尖らせる。
「いい気味だよ。いっそ、もっと苦しめちゃえばよかったのに。……あーあ。今考えると、惜しいことをしたな…。うちの王様を怒らせると怖いんだぞーって、後ろから全力で煽ればよかった。」
高く拳を掲げて、当時はできなかった煽りをやってみせる実。
それを見たディライトは―――
「あははははっ!!」
何故か、腹を抱えて笑い出してしまった。
「ルティ君、やめてくれ…っ。キリナミと、全くおんなじことを…っ」
「えー? でも、本心だしー?」
「ふふっ……その顔も、キリナミがよく…っ。ふふふ…っ」
どうやら、笑いのツボをとんでもなく刺激してしまったようだ。
言われてみれば、キリナミならやりそうである。
自分と魔法研究に勤しんでいた時も、よくダークな冗談を言ってはミーミアに手痛いツッコミを受けていたし。
「―――はぁ…」
ようやく笑いが引っ込んだようだ。
肩を震わせて悶えていたディライトが、大きな溜め息を吐き出した。
「なんだか……一気に、疲れてしまったよ……」
ぽつり、と。
そう呟いたディライトの表情には、言葉どおりの疲弊がたたえられていた。
「君を通してキリナミの面影を見ることはできるけれど……やはり、キリナミ本人はもう……私の隣にいない。」
ディライトの瞳に宿るのは深い悲しみと、それを遥かに上回る寂しさだった。
それを噛み締めるように胸に手を当てたディライトは、切なげに目元を歪めた。
「何故だろうね。なんとなくだけど……キリナミが、今もすぐ近くにいる気がするんだ。私はもう、一人のはずなのに……」
ゆっくりと空を仰ぐディライト。
実の力を受け取ることを拒んだからだろう。
空から降り注いでいた小雨は威力を落として、柔らかな霧雨になっていた。
もうじき、世界を脅かしていた豪雨もやむはずだ。
それをひしひしと感じながら、ディライトはそっと目を閉じる。
「キリナミ…。私は……君本人に迎えに来てほしかったよ。こんな未来に取り残すくらいなら、あの時に……ちゃんとした意味で、止めてほしかった。」
雨音に溶け入るような声で囁いたディライトの目尻から、雨粒とは違う雫が零れる。
次の瞬間―――
ディライトの胸元と実が持つ終焉の剣から、まばゆい光があふれ出した。
「!?」
実もディライトも、突然の出来事に目を瞠る。
光は実とディライトの間に集まり、さらに強まる。
必然的に、目を背けた実たちが数歩そこから退いた。
「―――ふぅ。やっと出られたよー。」
光が収まった、そこに立っていたのは―――




