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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第19部】希望ある未来へ
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〝最後まで、共に〟




「キリナミ……」





 ディライトが、茫然とその名を呼ぶ。

 実も完全に言葉を失っていた。



 少し長めの黄金色の髪。

 透き通るような菖蒲(あやめ)色の瞳。



 そこにいたのは、間違いなくキリナミだったのだ。



「どうして……」

「あらやだ。どうして、だなんてー。」



 (うめ)くようなディライトの問いかけに、キリナミは昔と変わらないお茶目な仕草で頬に手を当てる。



 そして―――



「ルティ君だけに全部を任せて、僕だけ(のん)()におやすみなさーいなんて……そんなことすると思った?」



 にやりと、キリナミは口の端を吊り上げた。



 まるで悪戯(いたずら)を企むような、少し子供っぽい笑顔。

 それはすぐに、柔らかい微笑みに取って変わる。



「ちゃんと、約束したじゃない。―――君を(ひと)りにはしないって。」

「―――っ!!」



 ディライトの顔が泣きそうに歪む。

 それを見つめながら、キリナミは昔話を(ひも)()く。



「あの時の魔法でね、君から力を奪い取ると同時に、僕のありったけの心を注ぎ込んでおいたんだ。」



「心を…?」



「そう。ま、君の力を奪う対価として僕が差し出せるのが、寿命と心だったって話なんだけどさ。でも、心を差し出すんだったら、あわよくば僕も未来に乗り込めないかなって、色々と細工を加えたわけさ。いんやぁ~、ルティ君に分身を作る魔法を解析させてもらっててよかったよね。」



「あ…」



 なるほど。

 今のキリナミは、影を作る要領でこの場に存在しているのか。



「……まあ、成功率なんて限りなくゼロに近い()けだったけど。」



 菖蒲(あやめ)色の双眸が、思案げに揺れる。



「いくら自我だけは一流の自由人っていったって、魂も肉体も手放した状態で、心だけが何千年も残っていられるかって言われるとねぇ…。これは、ディライトの肉体を守る魔法が、幸運にも僕の心も一緒に守ってくれたのかな。もしくは……僕の想いが、奇跡を掴んだ結果? なんちゃって♪」



 茶化して舌を出したキリナミは、「でも…」とすぐに唇を尖らせる。



()けに勝ったのはいいけど、そこから想定外が起こりすぎ! どんなに頑張っても、ディライトの中から出られないんだもん。それに、魔法の対価は寿命だけである程度足りてたみたいだね。僕の想定では心の全部を差し出すはずだったのに、ルティ君の中にも僕の心が残っちゃってるじゃん。そのせいで、ルティ君には相当しんどい思いをさせちゃった。ごめんねぇ?」



 到底謝っているとは思えない軽さ。



 でも、それがキリナミらしくて……



「変わってないなぁ……」



 気付けば、実は笑ってしまっていた。



「うっわ。なんか、煙たそうな顔してなーい?」



「なんかキリナミって、俺のうざい知り合いに似てるんだよ。そのおちゃらけたところもそうだし、何かにつけて抱きついてくるのもそうだし。」



「あらー? その人は、ルティ君の可愛さをよく分かってるじゃない。うりうりー♪」



「わっ……言ってるそばから!」



「何さー? ディライトには自分から抱きついたくせに。僕との再会も喜んでよー。」



「あはは。ちゃんと喜んでるよ。本当に嬉しい。でも……」



 キリナミとじゃれ合って微笑んでいた実は、そこで心底悲しい表情を浮かべる。





「―――すぐに、お別れでしょ?」





 そう訊ねると、キリナミの顔からふざけた色が消えた。



「……うん。そうだね。」



 眉を下げて微笑んだキリナミは、静かに実の言葉を肯定する。



 今のキリナミは、魔力の(かたまり)に心を乗せている状態。

 魂も肉体も持たない彼は、この姿を維持し続けることはできない。



 解放された心は、すぐに消えてしまうだろう。



「俺のことはいいから、本当にやりたいことをやりなって。いつまで放置するの? ディライトのこと。」



「……うん。」



 実に体を押し返されたキリナミは、再び実に触れることはしなかった。



 ゆっくりと体の向きを反転させた彼は、唯一無二の親友と向かい合う。



「まったく…。そんな顔するくらいなら、僕がここで剣を向けた時に、素直に諦めておけばよかったじゃん。割とどぎつい攻撃を容赦なく撃ってきて……この意地っ張り。」



 キリナミは困った顔で苦笑。



 一方のディライトは今にも泣きそうだ。



 その表情を見れば、彼がキリナミとの邂逅(かいこう)を心から喜んでいると同時に、遥か昔のことを後悔していると(うかが)い知れる。



「キリナミ……」



「ほーんと、困ったちゃん。ディライトって、昔から僕にだけ意固地で八つ当たりが激しいんだよ。表では穏やかーにしてるくせに、裏で二人になった瞬間、不平不満のオンパレード。僕がちょっとでも言い返したら、途端に揚げ足を取ってお説教だもんね?」



「それは―――」



「分かってるよ。ディライトが、僕の前でしか素の自分でいられなかったってことくらい。」



「………」



 返す言葉もないらしい。

 ディライトは、しゅんと肩を落としてしまった。



「だから僕も、意地になるしかないじゃん。ディライトがちゃんと僕を呼んでくれて、嬉しかった。だからこうして、出てこられたんだよ。」



「!!」



 ディライトが慌てて顔を上げる。

 その目はなんとなく、最後の希望の糸にすがりつくようなものに見えた。



 キリナミはそんなディライトに向けて、両手を広げる。





「ほら。迎えに来てあげたよ。約束どおり―――君の想いも罪も、僕が最後まで共に背負おう。」





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