分かれ道を突き破って
<第8章 想いを繋いで>
ずっと答えが見つからなかった。
存続か滅亡か。
そんな分かれ道に立たされて、どちらかを選ばなきゃいけないのに、どちらの道も選べなかった。
自分たちは〝今〟にしか存在できないんだと。
ここで死んだら、この記憶も想いも消えていくだけだと。
それを聞いて、なんだか目が覚めたような気分になって。
そして……
『私を……私の心を救ってくれて、本当にありがとう。』
詩織のあの笑顔を見た時、ごく自然に道が見えたのだ。
右でもなく、左でもなく。
その真ん中にある行き止まりをぶち壊して。
分かれ道を十字路に変えるような、まっすぐに前を貫く道が。
「俺たちは、いずれ死んでいく。ここで無理に終わらなくても、逆らいようもない終焉は訪れて―――そして、ゼロになってまた生まれ変わる。」
「!!」
実の言葉に、ディライトがハッとした。
「だって、そうでしょ? 今の俺はちょっと特殊かもしれないけど、キリナミと会うまでの俺は俺でしかなかったもん。前世の記憶を持ち越せない俺たちは、死ぬと同時に全てをリセットしてるんだと思う。だから、何度も同じ失敗を繰り返すんだよね。でも……全部が全部、リセットされるわけじゃない。」
きっと、これが世界の真実というわけじゃないと思う。
この世界の姿は一つではなくて、見る人によって無限に色を変えるもの。
ある人には正しくても、またある人には間違い。
でも、それでいいんだ。
―――自分が苦しみの果てに見た世界の姿は、これだから。
「同じことの繰り返しに見えても、そこに積み重なった想いの分、辿り着く場所はきっと違う。この世界は円環に巡るんじゃなくて、螺旋状に紡がれていくんだ。時には下に下がることもあるかもしれない。でもそれで苦しんだ分、上へ這い上がろうとする力は強くなる。そうやって強くなった分、上に上った先で、人は綺麗に輝く。俺は、そんな人たちを何人も見てきた。くそみたいな人間を腐るほど見てきた分、その人たちは本当に綺麗に見えた。穢れと輝きは、切っても切り離せないんだよ。」
歪んだ世界を、そのまま受け入れる。
レイレンの言葉を真に受けた自分の視界に広がったのは、そんな景色だった。
皆が皆、純粋に幸せというわけじゃない。
エリオスも拓也も、憎しみを糧に立っているようなものだ。
自分だって、生きることにとても前向きとは言えない。
尚希のように、過去のしがらみから解放されて真に希望を抱いて生きられる人間は、もしかしたらとても少ないのかもしれない。
それでも彼らは、確固たる信念を貫いて強く進んでいる。
根底に横たわる想いは違えど、そんな風に未来を切り開こうとする皆を、自分は綺麗だと思う。
だから―――
「今を生きる人間に、想いを託してみてもいいんじゃないかな? きっと、今回のことは無駄にならない。いや、俺がしない。ディライトやキリナミと一緒にあの過去を経験した人間として、あの時のリンドルの人たちの想いを次に繋げていくよ。俺の周りには、俺の想いを受け取ってくれる人がいる。そして、俺が託した想いはその人たちから広がっていくはずだから。」
実はディライトに、幸せに満ちた笑顔を向けた。
これは、強がりでもなんでもない。
幸せなんか望めないと理解していても、自分と共に歩む道を選んでくれた両親。
地球での生活を奪われても、自分を好きだと言って、笑って傍にいてくれる桜理。
苛烈ながらも大きな優しさで自分の背中を叩いて、一緒に突き進んでくれる拓也。
そんな自分たちを時に叱って諭しながら、根気強く見守ってくれる尚希。
一度は敵対しながらも、故郷を捨ててまで自分を支えたいと言ってくれたユーリ。
他にもたくさん、自分は本当にまぶしい人たちと出会ってきた。
人間をまるごと信じることはできない。
嫌いという気持ちも消えない。
だけど、自分の周りにいる人たちを信じて、彼らを愛することはできる。
だから今は、そんな人たちにこの想いを託していいと思うのだ。
だって、自分が想いを受け継ぐと言ったら、詩織はあんなにも幸せそうな顔をしてくれた。
最期まで絶望の道を貫き通したレティルだって、結局のところは自分に想いを受け継いでほしかったのだろう?
そして自分もまた、この想いを誰かに受け継ぐことができるなら、まだ未来に希望を持てると思う。
こんな馬鹿みたいな犠牲はこれで最後にして、今度こそ本当の意味で皆が笑える物語を紡げたらいい。
そうやって、人間を滅ぼすことなく人間を変えていけたら……
そう思えるのは間違いなく、これまでの悲しい過去があったから。
それがなければ、自分はこんな風に未来へ希望を抱けなかった。
なら、それが答えでいいじゃないか。
とはいえ正直なところ、父や自分が死んだその先がどうなるかなんて知ったこっちゃない。
未来を生きる人間が螺旋を下りまくって、結局世界が滅びるというなら、その時は勝手に滅んでろ。
自分は、自分が好きだと思う人々を守れればそれでいいんだ。
そう言ってしまうと、この選択はただの逃げでしかなくて、ひどく傲慢でわがままだけど……
―――でも、とても人間らしいと思わない?




