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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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グランの告白

 グランに呼び止められ、彼に背を向けていた実が顔だけをそちらに向ける。



「何?」



 冷たい表情と刺々(とげとげ)しい口調で、たった一言。



 その声にはこちらの意地など()()()(じん)に砕くだけの威力がこめられていたが、グランは必死に実に食らいついた。



「この際、全部白状する。」



 ともすれば、震えて上ずりそうになる声。



 実は相変わらず、冷酷だと印象づける表情でこちらを見ている。

 それが、たまらなく怖い。



「俺は、初めて会った時からずっと、お前は力のない奴なんだと思ってた。だから、お前を相手にしようとは思わなかった。」



「へぇ…。それはまた、ひどい差別だね。」



 無表情で返してくる実。



 反論はない。

 ついさっき、それで痛い目を見たばかりだ。



 グランはそこには触れず、先を続ける。



「でも、それじゃあ俺の中に矛盾が起こるんだ。」

「矛盾?」

「ああ、そうだ。」



 グランは一つ深呼吸をして、これまでずっと抱えてきた気持ちを打ち明けた。



「俺は……お前が怖くて仕方ない。」



 それを聞くや否や、実は意外そうな表情でこちらを見直した。

 数拍の間固まったかと思うと、実はハエルの背から降りて体ごと向き合ってくる。



 真正面から向けられる、薄茶色の双眸。

 その目に(とら)われるだけで、この場から逃げ出したくなってしまった。



 実は無言で続きを(うなが)している。

 その見えない力に押されて、グランは口を開いた。



「俺は、お前に関わるのが嫌だった。最初は、お前が力のない奴だからだと思ったんだ。でも違った。お前の前に立つと、俺は怖くて頭が真っ白になりそうになる。全部を見透かされてそうで、とにかく怖くて腰が抜けそうになるんだよ。今だって、本当は怖くてたまらない。でも、そのことに関して俺はなんの疑問も違和感もないんだ。心のどこかで、お前が怖いのは仕方のないことだって思っちまってる。」



「で?」



 腕を組んで続きを待つ実には、明らかに年齢不相応の威圧感が漂っている。



 そんな圧に屈しそうになる心を叱咤しながら、グランは全身に力を入れて覚悟を決めた。



「実、お前は知ってるんだろ? 俺がお前に対してこう思っちまう理由が。それに、ここまでのものを見せられたんだ。お前が今まで力のないふりをしてきたんだって、嫌でも分かる。お前は……一体、何者なんだ?」



 問いを受けた実は、しばらく反応らしい反応を見せなかった。



 実はしばらく何かを見定めるようにグランを見つめ、ふとした拍子に溜め息を吐き出す。



「俺が一体何者なのか……か。悪いけど、それは言えない。」



「なっ…!? おい!」



「正体を隠すのは、それを知られたくないから。別に知られても構わないなら、最初から(いつわ)る必要なんてない。違う?」



「それは……」



 正論を突きつけられ、グランは反論できずに言い(よど)む。

 すると、実が「でも…」と微笑んだ。



 それは、グランが初めて見る穏やかな微笑み。

 予期していなかったその笑みに、グランは思わず恐怖も忘れて見入ってしまった。



「俺に対してそう思うってことは、あんたの魔力に対する感受性は一流ってことだね。あんたの今までの努力は、無駄じゃないって証拠だよ。……でもまあ、それは俺と接する上では限りない不幸……とでも言うべきかな。」



 言い終えると同時に、実は再びハエルの背に乗った。



「行って、ハエル。」

「あ……ちょっと、待―――」



 グランが呼び止めるも、実はもう振り向かない。



 三人をそこに残し、純白の狼はあっという間に空を駆け上がっていった。



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