グランの告白
グランに呼び止められ、彼に背を向けていた実が顔だけをそちらに向ける。
「何?」
冷たい表情と刺々しい口調で、たった一言。
その声にはこちらの意地など木っ端微塵に砕くだけの威力がこめられていたが、グランは必死に実に食らいついた。
「この際、全部白状する。」
ともすれば、震えて上ずりそうになる声。
実は相変わらず、冷酷だと印象づける表情でこちらを見ている。
それが、たまらなく怖い。
「俺は、初めて会った時からずっと、お前は力のない奴なんだと思ってた。だから、お前を相手にしようとは思わなかった。」
「へぇ…。それはまた、ひどい差別だね。」
無表情で返してくる実。
反論はない。
ついさっき、それで痛い目を見たばかりだ。
グランはそこには触れず、先を続ける。
「でも、それじゃあ俺の中に矛盾が起こるんだ。」
「矛盾?」
「ああ、そうだ。」
グランは一つ深呼吸をして、これまでずっと抱えてきた気持ちを打ち明けた。
「俺は……お前が怖くて仕方ない。」
それを聞くや否や、実は意外そうな表情でこちらを見直した。
数拍の間固まったかと思うと、実はハエルの背から降りて体ごと向き合ってくる。
真正面から向けられる、薄茶色の双眸。
その目に囚われるだけで、この場から逃げ出したくなってしまった。
実は無言で続きを促している。
その見えない力に押されて、グランは口を開いた。
「俺は、お前に関わるのが嫌だった。最初は、お前が力のない奴だからだと思ったんだ。でも違った。お前の前に立つと、俺は怖くて頭が真っ白になりそうになる。全部を見透かされてそうで、とにかく怖くて腰が抜けそうになるんだよ。今だって、本当は怖くてたまらない。でも、そのことに関して俺はなんの疑問も違和感もないんだ。心のどこかで、お前が怖いのは仕方のないことだって思っちまってる。」
「で?」
腕を組んで続きを待つ実には、明らかに年齢不相応の威圧感が漂っている。
そんな圧に屈しそうになる心を叱咤しながら、グランは全身に力を入れて覚悟を決めた。
「実、お前は知ってるんだろ? 俺がお前に対してこう思っちまう理由が。それに、ここまでのものを見せられたんだ。お前が今まで力のないふりをしてきたんだって、嫌でも分かる。お前は……一体、何者なんだ?」
問いを受けた実は、しばらく反応らしい反応を見せなかった。
実はしばらく何かを見定めるようにグランを見つめ、ふとした拍子に溜め息を吐き出す。
「俺が一体何者なのか……か。悪いけど、それは言えない。」
「なっ…!? おい!」
「正体を隠すのは、それを知られたくないから。別に知られても構わないなら、最初から偽る必要なんてない。違う?」
「それは……」
正論を突きつけられ、グランは反論できずに言い澱む。
すると、実が「でも…」と微笑んだ。
それは、グランが初めて見る穏やかな微笑み。
予期していなかったその笑みに、グランは思わず恐怖も忘れて見入ってしまった。
「俺に対してそう思うってことは、あんたの魔力に対する感受性は一流ってことだね。あんたの今までの努力は、無駄じゃないって証拠だよ。……でもまあ、それは俺と接する上では限りない不幸……とでも言うべきかな。」
言い終えると同時に、実は再びハエルの背に乗った。
「行って、ハエル。」
「あ……ちょっと、待―――」
グランが呼び止めるも、実はもう振り向かない。
三人をそこに残し、純白の狼はあっという間に空を駆け上がっていった。




