戦いの結末
「………?」
いつまで経っても、覚悟していた衝撃が襲ってこない。
それを疑問に思って顔を上げたグランは、目を大きく見開いた。
「シェイラ……」
いつの間にか、シェイラがグランとフェンの間に割って入っていた。
シェイラはグランをかばうように立ちはだかり、フェンをじっと見つめている。
その目から、つうっと一筋の雫が零れていった。
「シェイラ、どうして……」
呻くフェンに、シェイラは答えない。
代わりに―――
パンッ
澄んだ音が、その場に響いた。
「馬鹿!」
絞り出すような、切ない声。
その言葉を皮切りに、シェイラの双眸から堰を切ったように涙が流れていく。
「どうして…? どうして気付いてくれないの? どうして、本当の私を見てくれようとしないの?」
フェンは張られた頬を押さえて、茫然とシェイラを見つめている。
見開かれた目は、信じられないと訴えているようだった。
グランも怪我の痛みを忘れ、シェイラの後ろ姿に視線を注ぐ。
「フェンもグランも、自分たちがしてることが私を追い詰めてるだけだって……いい加減、分からないの?」
「え…?」
どういう意味だと問いたげな二人の声。
それで二人の答えを悟ったシェイラの表情が、悲しみとも怒りともつかない感情で大きく歪む。
「私は、力なんていらない! 力なんて、大っ嫌いなの!! 力を求めたせいで、パパもママも死んじゃった。なのに、どうして私が力で喜ぶなんて思えるの? それなのに、二人して力が力がって……ばっかみたい! 私のことなんて、これっぽっちも考えてないじゃない! 二人の自己満足に、これ以上私を巻き込まないでよ!!」
「―――っ!!」
シェイラの悲痛な叫びに、グランが息を飲む。
そんなグランを振り仰いだシェイラの表情は、ぞっとするくらいに冷たいものだった。
「今さら何? 私の言葉に耳を貸さなかったのは、あなたでしょう。私の大切な人たちに迷惑をかけてきたあなたを、好きになることは絶対にないわ。」
容赦なく言い放ち、そこでシェイラはグランから視線を外す。
「………でも、私も悪かったとは思う。もっと早く、こうすればよかったのよね。ごめんなさい。あなたの気持ちに応えることはできないけど、友人としてあなたの幸せを願ってるわ。」
シェイラはそこまで言うと、グランの存在を自分の中から断ち切った。
そして、目の前で呆けているフェンに視線を戻す。
大事で大事で、仕方ない人。
変わってしまっても、想うことをやめられなかった人。
今まで、伝えたい気持ちを伝えられなかった人。
本当に大好きで―――この上なく愛おしい人。
「フェン……」
小さく名を呼ぶ。
「もういい。もういいの。私は、力なんていらない。強い力がなくても、私はフェンの心が温まるような、優しさにあふれた料理が好き。それで、笑って傍にいてくれるあなたが何より大事。それだけでいいの。だから……もう、力なんて求めないで。戻ってきて。私の傍にいてよ。それだけでいいから……お願い。」
今伝えられるだけのありったけの気持ちを込めて、シェイラはフェンに訴えた。
しかし。
「………」
フェンは反応しない。
戸惑うわけでもなく、かといってシェイラを受け入れる風でもない。
ただぼうっと、焦点の合っていない視線で虚空を見つめていた。
「フェン?」
訝しんだシェイラは、フェンに向かって手を伸ばす。
だが、その手がフェンに触れるより先に、シェイラの体は後ろに引き寄せられていた。
「きゃ…っ」
後方へ傾いだ体は、フェンとは違う別の人物に受け止められる。
シェイラは、自分の邪魔をした人物をキッと睨んだ。
「グラン、何をするの!? 離して!」
「違う! ちょっと待て!!」
グランの声に含まれた緊迫感に、シェイラが息を飲んで抵抗をやめる。
この時のグランは、痛みすら吹き飛ぶほどの戦慄に身を強張らせていた。
その緊張感から、シェイラを掴む手にも力がこもる。
「あいつ……なんか、おかしいぞ。」
フェンを睨んで一言。
シェイラも異変には気付いているようで、心配そうに眉を下げてフェンを見つめていた。
二人が様子を窺う中、さらなる異変が起こる。
―――ビクンッ
突如、フェンの体が痙攣した。




