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世界の十字路【全話統合版】  作者: 時雨青葉
【第2部】守護する獣の街
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力を求める者どうしの戦い

 自分と勝負をしないか、なんて。

 それは、完全に想定外の提案。



 故に―――



「………は?」



 グランは、その一言しか発することができなかった。

 グランが呆気に取られている間にも、フェンはそれに構うことなく先を続ける。



「今までなんとか諦めようとしてきたんですけど、やっぱり無理でした。」

「………?」



「やっぱり、シェイラをあなたに渡したくないです。」

「!!」



 はっきりとフェンの口からその言葉を聞いて、グランは自分の認識が間違っていたことに気付いた。



 そんな。

 フェンは自分を慕っていて、誰よりも自分に協力してくれた奴だったのに。



 そんな風に動揺する自分がいたが、フェンは自身の言葉を取り消す気などさらさらない様子。



 いくら認め(がた)くても、目の前にある現実は変わらないのだ。



「……お前、俺に勝てると思ってんのか?」



 言いながら、グランは内心で危機感を募らせていた。



 フェンは先ほど、こちらが放った魔法をいとも簡単に消してみせた。

 それはつまり、フェンの魔力がこちらを上回っている証拠だ。



 今のフェンに、果たして自分は勝てるだろうか…?



 状況を整理して押し黙るグランの耳に、短いフェンの笑い声が響く。



「どうしたんです? いつものグランさんなら、自信満々で受けるのに。」



 フェンの笑顔は、なんの含みもない無邪気なものだった。

 だからこそ、その笑顔に腹が立った。



 完全に見透かされている。

 そして、見下されている。



 そう感じたことはグランのプライドを大いに刺激し、彼の心にとてつもない苛立ちを生み出していく。



「……後悔しねぇんだな?」

「ええ。この方がすっきりします。」



 少しも間を置かない即答が返ってきた。



 グランは威嚇する意味も込めて苛烈な敵意を放ったが、フェンはその敵意を受けてもにっこりと笑っている。



 その笑顔を見た刹那、グランの中で怒りと悔しさが爆発した。



 グランは無言のまま、右手をひらめかせた。

 先ほどと同じように、火花をまとった球体をフェンに向かって投げつける。



 先ほどとは違い、威力も速度も完全にコントロールしたものだ。

 当たったら、ひとたまりもないだろう。



 しかし、フェンは()けようとする様子もなく、ただそこに立っているだけ。



(当たる気か…?)



 ()(げん)に思うグランの前で、フェンが頭をほんの数センチだけ傾けた。



 電光石火の勢いで放たれた球体はフェンの耳元をかすめていき、背後の木に当たって大爆発を起こす。



「なっ…!?」

「学習能力がないですねぇ。その攻撃は、さっきので無意味だと分かってたでしょう?」



 驚愕するグランに対して、フェンは呆れた口調で息を吐く。

 そして、ゆっくりとした動作で首を戻して、閉じていた目を開き―――



 にやりと(わら)った。



「―――っ!?」



 グランの背筋を、悪寒が駆け(のぼ)っていく。



 狂った笑みだ。

 そう感じた。



 心臓が鷲掴(わしづか)みされたように収縮し、脳内が恐怖で染まる。

 目の前の異常なモノを全身が拒絶し、ここから逃げることを()いようとしてくる。



 それでもグランがここから動かないのは、本能を上回るほどの意地がなせる(わざ)だった。



 逃げたくない。

 負けたくない。



 今ここで逃げることは、己のプライドが決して許さない。

 逃げてしまったら、今まで自分が努力して構築してきた世界が崩れ去ってしまう。



 フェンへの本能的な恐怖よりも、自分を失う恐怖の方が強かった。



「俺は……強くなきゃいけないんだ。」



 自分に言い聞かせるように呟き、瓦解しかけていた自信を掻き集める。

 目元を険しくしたグランは、地面に手をついて力を込めた。



 周囲に落ちていた枝や葉が、ふわりと浮き上がる。

 グランがフェンを睨むと、それらは猛スピードでフェン目がけて飛んでいった。



 だが、枝や葉の槍がフェンを直撃する前に彼の姿はその場から消える。

 いや、実際には消えたわけではなかった。



 グランは空を見上げる。



 遥か上空に大きく跳躍しているフェン。

 その跳躍力は驚くべきもので、周囲の木々を軽く超えるほど。

 魔法なしでは成り立たない光景だ。



 そんなフェンを見て、グランの中に新たな思いが広がっていく。



(どういうことだ…?)



 (いだ)いたのは、疑惑の念。



 ついこの間まで魔力の存在すらろくに意識していなかったような人間が、ちょっと会っていなかった数日の間にここまで魔法を使いこなせるはずがない。



 フェンの後ろには、絶対に誰かの影がある。



 しかし、それ以上の思考に及ぶ余裕はなかった。



 ゆっくりと地面に着地するフェン。

 その後ろには、(つた)が絡んだ木が立っている。



 これはチャンスだ。



「わっ…」



 フェンが驚いたような声をあげる。



 グランが操った(つた)がフェンの腕を捕らえたのである。



 フェンが目を丸くする間にも蔦はどんどんその体に巻きついていき、フェンから行動の自由を奪う。



(もらった!)



 グランは口の端を吊り上げ、身動きができないフェンとの間合いを一気に詰めた。

 走りながら、手に魔力の塊を作り上げる。



 さすがのフェンも、この攻撃は()けきれまい。

 これでフェンが気絶でもすれば、この勝負は自分の勝ちだ。



 それを確信して腕を振り上げたその瞬間、ふとフェンと目が合った。





 フェンは―――笑っていた。





「!?」



 いけないと思った時には、もう遅かった。



「―――っ」



 (にぶ)い音と共に衝撃が走る。

 衝動的に口から出そうになった叫び声を、なけなしの理性でなんとか噛み殺した。



 振り上げた腕。

 そこに、フェンの体に巻きついていたはずの(つた)が深々と突き刺さっていた。

 蔦は腕を貫通し、その先端までを真っ赤に染めている。



 フェンに絡まる蔦は、未だに自分が支配しているはずだ。

 その証拠に、蔦は今も自分の意志に応えてフェンの体を締めつけている。



 フェンはこちらが操る蔦の一部だけの主導権を乗っ取り、自らが思うままに操ってみせたのだ。



 フェンが指をくいっと招くように動かす。

 すると、グランの腕を貫いていた蔦がゆっくりと引き抜かれた。



「うぐ…っ」



 痛みの神経をじっくりと時間をかけて刺激されて、脳内を真っ白に焼くほどの激痛がグランを襲う。



 蔦が抜けるその瞬間、グランの腕から大量の血液が零れ落ちた。



「く、そ…っ」



 膝がくずおれてしまいそうだったが、グランは意地だけで両足を踏ん張って全身を支えた。



 フェンは肩で息をするグランを無感動に見つめ、自分に絡みつく(つた)に手を添える。



「さすがに苦しいかな。」



 ぽん、と優しく(つた)を叩くフェン。

 たったそれだけのことで、蔦の支配者が変わった。



 蔦はあっという間にフェンの体から離れ、元のように木に絡んで動きを止める。



 同時に自分から大量の魔力が抜けていく感覚がして、グランは思わず倒れそうになってしまった。



「さて、もう終わりですか?」



 余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子のフェンに、グランは悔しそうに表情を歪めた。



 こちらの動きを逆手に取られてしまった。

 状況を甘く見過ぎていたようだ。



「……誰だ?」



 グランはフェンに問いかける。



「え?」



 急に問われて話についていけなかったらしく、フェンは不思議そうに首を傾げた。

 グランはもう一度問う。



「お前に入れ知恵したのは誰だ?」

「入れ知恵って……」



「誰だ?」

「あなたには、関係ないでしょう。」



 きっぱりとグランの質問を跳ね除け、フェンはうっとりと微笑んだ。



「あの人は、まるで神様ですよ。あの人のおかげで、僕は変わることができた。あの人は、僕が望むものをくれたんです。感謝してもしきれない。これで、何もかもが上手くいくんです。あとは……」



 グランに視線を移したフェンの瞳に、残忍な光が宿る。



「あなたとの決着がつけば、完璧です。」



 (わら)うフェンの声が、妙に遠く聞こえる。



 血は依然と流れ続け、頭の奥が(しび)れて耳鳴りがしてくる。

 冷や汗はいつしか脂汗に変わっていた。



 そんな状態でも、グランは必死に立っていた。



「俺は……シェイラが本気で好きだ。」



 残っている気力を掻き集め、グランはフェンを睨む。



「誰にも渡したくない。特に……今のお前にはな。今の狂ったお前には、死んでもシェイラを渡さない! シェイラが不幸になるだけだ!!」



「黙れ! お前に、シェイラの何が分かるっていうんだ!!」



 フェンの表情が憎々しげに歪み、衝動に突き動かされた腕が振り上げられる。

 それを()けられるだけの力はなかった。



 ―――このまま、殺されるのかもしれない。



 思考もまとまらなくなってきた頭で、ぼんやりとそう思った。



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