第8話:神、前代勇者の拒絶に戸惑う
「支度金、金貨十枚……。
王よ。失礼ながら、これで一体何をしろと?
この人数で旅に出るというのに、
マトモな鉄の剣を一振り買ったら、
もうお釣りが小銭しか残らんぞ」
吾輩が神としての金銭感覚を
突きつけると、王は豪快に笑い飛ばした。
「はっはっは! 気にするな!
足りない分は、冒険者ギルドで稼げばいい。
魔物を倒せば報奨金が出る仕組みだ。
やりがいのある仕事だぞぉ!」
「やりがい……。
全知全能の吾輩が、まさか下界で
日銭稼ぎをすることになるとはな。
おい、そこの勇者」
吾輩は、白目を剥いて
有給申請書を握りしめている若者に声をかけた。
「お前も来い。実戦経験者がいれば、
このカイルも心強いだろう。
今なら特別に、吾輩の後ろを歩く権利をやるぞ」
「…………。
…………無理です。絶対に嫌です」
前代勇者は、首をちぎれんばかりに横に振った。
その目は、恐怖と疲労で血走っている。
「俺はもう、魔王の顔なんて見たくない!
三日前に世界を救った瞬間、
次の絶望が降ってきたんだぞ……?
心が壊れたんだ。頼む、俺を、
ただの『動かない置物』にしておいてくれ……」
「なんと向上心のない!
神の吾輩が直々にスカウトして――」
バコンッ!!
「あだっ!? ルナリエ、いきなり殴るな!
痛いだろうが!」
「アスタロ様。
本人の意思を無視した強制労働は
神様でもアウトです。
さあ、さっさと冒険者ギルドへ行きますよ。
王様、お邪魔しました」
「うむ! 頑張って魔王を倒してくれたまえ!
あと、ギルドで仲間をもう一人見つけるといい。
四人パーティが、この国の推奨だからな!」
王様の軽い声に見送られ、
吾輩たちは王宮を後にした。
「……しかしルナリエ。
王様、あんなにケラケラ笑ってたが、
金貨十枚はやっぱりケチすぎないか?」
「文句を言っても金貨は増えません。
ほら、冒険者ギルドが見えてきましたよ」
こうして、一行は仲間を求めて
王都の冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
前代勇者の「有給希望」に
本気で引いてしまった、
ただのちょっと反省中の創造主である。




