第9話:神、不景気の「源凶」を特定する
冒険者ギルドの扉を開けると、そこは熱気と酒臭さ、
そして不平不満の渦だった。
「やってられるか! 魔物退治の報奨金がこれだけかよ!」
「中抜きされすぎて、パンすら買えやしねえぞ!」
荒くれ者たちの怒号が響く中、
吾輩たちが仲間の募集板を眺めようとした、その時。
「……あーあ、また新しい『生贄』の募集?
ご愁傷様。君たちも、人生詰んじゃった口?」
背後から、やる気ゼロの間延びした声がかけられた。
振り返ると、そこには酒のジョッキを片手に持った、
派手なローブの女魔道士が立っていた。
「……ん? 貴様、どこかで……」
「あ、私は前代勇者の旅に同行してた魔道士だよ。
今はここで昼間から飲んでるわけ」
吾輩は、その女の顔をじっと見つめた。
……。
…………。
「…………。おい、ルナリエ。
この国が、なぜここまで不景気なのか。
勇者がなぜ、働いても報われないのか。
その『原因』が、今、完璧に理解できたぞ……」
「おや、アスタロ様。
ギルドの帳簿も見ずに、もう特定しましたか?」
吾輩は、血管が浮き出るほど指を震わせ、
目の前でヘラヘラと笑う女を指差した。
「お前だ! お前がいたからだ、セレス!」
「えぇっ!? いきなり何!?
私はただの、お酒大好きなフリーターだよ!?」
「とぼけるな! ルナリエ、見ろ。
こいつも吾輩と同じ『創造主』の端くれだが……
その本質は最悪だ。存在するだけで周囲の資産を枯らす、
生粋の『貧乏神』なんだよ!」
セレスの顔が、一瞬で引きつった。
そう、こいつは自分が世界を創るのをサボり、
吾輩が創ったこの世界に居着いて運気を吸い取る疫病神なのだ。
「モニター越しに見ていた時は、
正体までは分からなかったが……。
吾輩が天界で必死に監視業務(残業)をしてる横で、
画面の端っこに映るお前が昼間から美味そうに酒を飲む姿を
見るたびに、『なんだこのやる気のない酔っ払いは!』と
無性に腹が立っていたんだ。……まさかお前だったとはな!」
「い、いやぁ、それは……。
ただの八つ当たりじゃない……?」
「八つ当たりなものか!
お前のせいで勇者の金が消えていたんだぞ!
お前、さっさとこの世界から出て行け!
今すぐお前の母親(地母神)に居場所を報告してやる!」
「えーっ、やだやだ! 絶対に帰らないよ!
神界に戻ったら、お母さんに捕まって
『強制世界創造合宿』にぶち込まれるもん!
あそこ、昼寝もできないしお酒も出ないんだよ!?」
セレスは地べたにひっくり返り、
ジョッキを握りしめたまま、幼児のように
バタバタと足を動かして駄々をこね始めた。
「恥を知れ、恥を! 創造主のプライドはないのか!」
「ないよ! そんなの食べられないし、腹の足しにもならないもん!
私はここに永住するの!
頼むよアスタロ、お母さんにだけは言わないで!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
不景気の原因である「居座り貧乏神」に対し、
モニター越しの悔しさをぶつけ始めた、
ただの激怒中の創造主である。




