第10話:神、不法占拠神(ニート)と押し問答する
「いいから帰れ! 帰るんだセレス!
お前という不純物が混ざっているせいで、
吾輩の創った清らかな世界が、
ドブ川のような不景気に染まっているんだぞ!」
吾輩はギルドの床に転がるセレスの襟首を掴み、
全力で出口へと引きずった。
だが、この女、無駄に神力を使って
床に吸着していやがる。
「やだやだ! 絶対に一歩も動かないもん!
ここはお酒も美味しいし、
何より『働かなくていい空気』が
最高に満ちてるんだもん!」
「お前が吸い尽くした後の残りカスだろうが!
いいか、自分の世界を作って、
そこで王にでも神にでもなって、
好きなだけグーたらしてればいいだろ!」
吾輩の至極真っ当な提案に、
セレスはジョッキを離さず鼻で笑った。
「アスタロ、君は分かってないなぁ。
自分で世界を作るなんて、
大陸の配置から生態系のバランス調整まで、
初期設定が死ぬほどめんどくさいじゃん!
他人が苦労して完成させた世界に居着いて、
ダラダラ過ごすのが一番コスパいいんだよ!」
「この究極のパラサイト神め……!
だいたい、吾輩がわざわざ降臨するまで、
『神は世界に直接干渉してはいけない』という
絶対のルールがあったはずだぞ!
お前、ルール違反だぞ!」
「干渉なんてしてないもーん。
私はただ、ここに居座って、
だらだらしてるだけだもん。
ただ存在してるだけで勝手に不景気になるのを
『干渉』って呼ぶのは言いがかりだよ!」
この……どこまでも自分に都合のいい理屈を!
吾輩の血管が、かつてない音を立てて弾けた。
そこで、後ろで見ていたルナリエが
冷ややかな声をかける。
「……アスタロ様。一つよろしいですか?」
「なんだ、ルナリエ。吾輩は今、
この粗大ゴミ(神)の搬出に忙しいんだ!」
「あなたは全知全能を自称して降臨されましたが。
なぜ、この女(貧乏神)が紛れ込んでいることに
今まで気づかなかったのですか?」
ギクリ、と吾輩の動きが止まった。
「……そ、それはだな。神は万能だが、
『他の神』に直接干渉することはできないんだ。
管理権限が競合するというか、
同業者のプライバシーには踏み込めないというか……」
「要するに、見逃していたんですね。
全知全能(笑)ですね」
「笑うな! 吾輩だって精一杯やってるんだ!
おいセレス、お前という『バグ』を
排除しない限り、吾輩の調査は進まんのだ!」
「やだもーん! 私はこの世界の一部だもーん!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
自分の創った世界を「コスパがいい」と
居抜き物件扱いされたことに、
本気で涙が出そうになった、ただの創造主である。




