第11話:神、ニート神に「究極の選択」を迫る
気がつけば、ギルドの窓から差し込む光は、
燃えるような赤に染まっていた。
不毛な言い争いを続けて、もう数時間が経過した。
酒場の客も、呆れて半分くらい帰っている。
「……はぁ。分かった、分かったよ。
もう勝手にしろ。ただし、条件がある。
これが吾輩の最後に出す妥協案だ」
吾輩は、床に張り付いたセレスの襟首を離し、
指先を突きつけた。
「神のままで居座らせるわけにはいかん。
吾輩の力で、お前を一時的に『人間』に変える。
権能を封じ、ただの非力な女としてなら、
この世界に留まることを認めよう。
……安心しろ。神界に帰る時は、
ちゃんと元に戻してやるからな」
「えぇっ!? 人間になるの!?
やだやだ! 絶対に嫌だよ!」
セレスは、顔を真っ赤にして
激しく首を横に振った。
「神様の力がないと、ぐーたらできないじゃん!
魔法でぱぱっと寝床を作ったり、
おつまみを無から出したりできないし……
何より、力を使ってお金を出さないと、
ぐーたらなんてしてられないでしょ!?」
「…………。おい、ルナリエ。聞いたか?」
「はい。はっきりと『神の力でお金を出している』
と自白しましたね、アスタロ様」
吾輩は、冷え切った目でセレスを見下ろした。
「やっぱり、この国の経済が狂ってるのは
お前のせいじゃないか!
勝手に偽金をバラ撒いてインフレを起こし、
さらに貧乏神の特性で運気まで吸う……。
お前、この世界を滅ぼす気か!?」
「違うもん! 私はただ、
働かずに飲み食いしたいだけだもん!」
「それが一番の害悪なんだよ!
……だいたいお前、そんなぐーたら精神で、
よく前代勇者との過酷な旅に同行できたな?
あいつ、休みも取れずに走り回ってたんだぞ?」
吾輩の問いに、セレスは
ケロッとした顔でジョッキを掲げた。
「え? だって、あいつ(勇者)に
荷物持ちから野営の準備まで、
全部丸投げしてたからね!
私は後ろで、あいつが稼いだお金で
お酒を飲んで応援してただけだよ!」
「…………」
勇者の過労の原因、その半分は
こいつのせいだったのではないか。
吾輩は、膝から崩れ落ちそうになるのを
必死で耐えた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
前代勇者の「魂の摩耗」の真実を知り、
そっと空を見上げて涙を拭った、
ただの情に厚い創造主である。




