第12話:神、疫病神(ニート)を押し付けられる
「ええい、話がループしているぞ!
いいかセレス、これが本当に最後の選択だ。
今すぐ神界の実家に強制送還されて、
お母さんの『地獄の労働合宿』に参加するか。
それとも吾輩の力で、能力無しの
『ただの人間』になって、ここで暮らすか。
どちらか選べ! 今すぐだ!」
吾輩は、床に張り付いたセレスを指差し、
究極の二択を突きつけた。
「うぅ……お母さんの説教(24時間営業)か、
無能な人間か……。
…………分かったよ、人間になる!
お母さんに捕まって働かされるくらいなら、
人間になってダラダラ過ごす方が
よっぽど幸せだもん!」
「……。よし、交渉成立だな」
吾輩は、無造作にパチンと指を鳴らした。
目に見える変化はないが、彼女の神としての
オーラと、無限の酒代を生む権能は、
たった今、この世界から消滅した。
「あ……。なんか、体が重い……。
お酒の酔いも、急に回ってきた気がする……」
「それが人間の『肝臓』というものだ。
大切にしろよ。……ではさらばだ。
二度と吾輩の視界に入るなよ」
踵を返して立ち去ろうとする吾輩。
だが、服の裾をギュッと掴まれた。
「……何してるの、アスタロ。
一緒に行くに決まってるじゃん」
「はあああああ!? 全力で拒否だ!
なんで吾輩が、お前みたいな
歩く『お荷物』を連れて行かなきゃならんのだ!」
「だって、今の私は『ただの非力な女の子』だよ?
路銀もないし、魔法も使えない。
ここで置いていかれたら、
お腹が空いて一銭も払わずに食べちゃうよ?
憲兵さんに捕まって牢屋に入れられちゃうよ?
創造主様は、そんな可哀想な元・同僚を
見捨てちゃうのかなー?」
セレスは上目遣いで、
わざとらしい涙を浮かべて見せた。
……腹立つ。この女、人間に変わっても、
図々しさは神のままだ。
「ルナリエ! なんとかしてくれ!」
「……アスタロ様。らちが明きませんね。
彼女を一人で放流すれば、
また別の酒場で無銭飲食を繰り返しては、
その都度騒ぎを起こして周囲に迷惑をかけるのは目に見えています。
監視下に置いて、無理やり働かせるのが
一番効率的かと思われます」
「労働……!? 嫌だよ、ルナリエちゃん!」
「……。分かった、分かったよ!
連れて行けばいいんだろ、連れて行けば!」
吾輩は、天を仰いで慟哭した。
勇者のデバッグに来たはずが、
なぜか「不燃ゴミ」の処分まで
セットで付いてきてしまった。
「やったぁ! カイル君だっけ?
私のこの荷物、持たせてあげるから、
代わりに美味しいお昼ご飯、奢ってね!」
「…………は?」
唖然とする新米勇者を余所に、
セレスは自分の重そうな荷物を
当たり前のようにカイルに押し付けた。
「ひぃぃ! やっぱり、
悪い組織の増員なんだぁぁぁ!」
カイルの絶叫と共に、
いよいよ混沌としたパーティが結成された。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
自堕落な神を「人間」にデグレードさせたのに、
なぜか敗北感を拭いきれない、
ただの運の悪い創造主である。




