第13話:神、宿代の現実に打ちのめされる
「よし、カイル。貧乏神という
最大のバグは無力化した。
これで明日からは、この国の景気も
まともな右肩上がりを見せるはずだ。
……さて、吾輩たちも明日の冒険に備えて、
まずは適当な宿でも探しにいくとしよう!」
吾輩は意気揚々と、ギルドの重い扉を
勢いよく押し開けた。
――バァァンッ!!
「…………。
……真っ暗、な上に、猛烈に寒いな」
開いた扉の先には、街灯もまばらな、
しんと静まり返った王都の夜が広がっていた。
吹き込んできた夜風が、薄着の吾輩の肌を刺す。
口喧嘩に夢中で、時間の経過を完全に見失うとは……。
「アスタロ様。深夜に近いこの時間、
今から知らない街を歩き回るのは無謀です。
……。幸い、隣の建物が酒場兼宿屋のようです。
あそこなら、まだ明かりがついていますね」
ルナリエが指差した先には、
煤けた看板を掲げた古びた宿屋があった。
中からは、酔っ払いたちの騒がしい声が漏れている。
「……む、あそこか。
だがルナリエ、あんなボロ宿では、
吾輩の繊細な肌が荒れてしまうぞ!」
「贅沢を言わないでください。
王からもらった金貨は、
明日の装備を整えるために温存すべきです。
……。こんばんは、大人三人、子供一人。
一番安い部屋を貸してください」
宿のカウンターでルナリエが交渉を始めると、
油ギッシュな親父が、面倒そうに鼻を鳴らした。
「……あ? 四人で一部屋、雑魚寝でいいなら、
銀貨二枚だ。……飯はもう終わったぞ」
「銀貨二枚!? そんなに取るのか!
しかも飯抜きだと!? 吾輩は神だぞ、
せめて温かいスープくらい――」
「アスタロ様。静かにしてください。
そんな目立つ真似をすれば、明日の朝には
憲兵に包囲されて、勇者の旅が詰所で終わります。
……。親父さん、銀貨二枚です。お願いします」
ルナリエは淡々と支払い、
カイルが背負った重い荷物を見つめた。
「カイル様、申し訳ありません。
今日の宿は、ここにするしかなさそうです。
……もちろん、夕食は抜きですよ。
アスタロ様が、降臨直後のオークを
塵にしてしまったせいで、
換金できる素材が一つもありませんから」
「…………」
吾輩は、膝から崩れ落ちそうになった。
全知全能のはずが、夕食抜きのボロ宿雑魚寝。
これが……現場のリアルだというのか。
「ひぃぃ! お腹が空いて、
僕が最初の生贄にされるんだぁぁ!」
「……うるさいぞカイル。
吾輩だって腹が減っているんだ」
カイルの空腹の悲鳴が、
深夜の宿屋に虚しく響いた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
全知全能の空腹を紛らわす方法を、
必死に考えている創造主である。




