表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吾輩は神である。そして今、猛烈にキレている。  作者: じょん-ドゥ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/32

第14話:神、鉄の剣より串焼きに魂を売る

 翌朝。王都の安宿で、吾輩は自分の腹の虫が奏でる、

 重低音の合唱で目を覚ました。

 隣ではカイルが「お腹が空いて、もう一歩も歩けません。

 このまま餓死して、不法投棄される運命なんだ……」と、

 朝から縁起でもない呪文のような独り言を呟いている。

 だが、泣き言を言っても胃袋は満たされぬ。

 吾輩たちはフラフラと千鳥足で、王都の武器屋通りへと繰り出した。

 朝の清々しい空気も、今の吾輩には、

「美味そうな匂いがしない無能な気体」にしか感じられん。


「いいか、カイル。王からもらった金貨十枚を、

 一分一厘たりとも無駄にはできん。

 今日こそお前に相応しい、勇者の装備を整えてやるぞ。

 まずは形から入らねば、魔王の配下にデコピンされただけで

 お前の人生がログアウトしてしまうからな」


「……。ついでだ。セレス、お前も人間にしたことだし、

 何か身を守るものがいるだろう。吾輩の慈悲で、

 一つだけ装備を買ってやる。……何がいい?

 護身用の短剣か、それとも防御を固める小盾か?」


 吾輩が神としての、海より深い懐を見せて問いかけた、

 その瞬間だった。


「ビールと串焼き! あと、塩っ辛いおつまみ!!」


 セレスが、昨日から一度も見せなかった爆発的な元気で、

 天高く拳を突き上げた。その瞳は、店頭に並ぶ名剣よりも、

 ギラギラと野性味溢れる輝きを放っている。


「ふざけるな、この貧乏神! お前のどこに、

 ビールで身を守る要素がある! 酔って敵の攻撃を、

 千鳥足でかわす酔拳でも習得するつもりか!

 吾輩は今、真面目に装備の話をしているんだぞ!」


「えーっ! だって人間になったら、お腹が空きすぎて、

 一歩も動けないんだもん! 今の私にとって、

 高級な鎧よりも価値があるのは『満たされた胃袋』だよ。

 アスタロ、私の『最優先装備ビール』、早く買ってよ!」


「お前を今すぐ次元の隙間に永久装備してやろうか!」


 吾輩の額に青筋が浮かぶ。だが、後ろからカイルの

 襟首を掴んでいたルナリエが、冷淡な声で口を挟んだ。


「アスタロ様。残念ながら、この救いようのない元・神の、

 言うことにも、事務的な観点から一理あります。

 勇者カイル様をご覧ください。空腹の限界で、

 自分の体重すら支えられず膝が笑っています。

 ……どうやら装備より先に、胃袋の補填が必要です」


「…………」


 結局、吾輩たちは武器屋の重厚な門を叩く前に、

 煙が立ち上る屋台の、芳しい肉の焼ける匂いへと、

 魂ごと吸い寄せられることになった。


「おじさん、串肉を四本くれ。……おいセレス!

 勝手に横の酒屋にふらふら行くな!

 戻ってこい! ビールなど絶対に買わんぞ!」


「ええーっ! けち! アスタロのわからず屋!」


 セレスの抗議を無視して、吾輩は熱々の串肉を受け取った。

 吾輩とカイル、そしてルナリエは、

 その肉に一斉にかぶりついた。

 ……。

 …………美味い。なんだこの、暴力的なまでの脂の旨味は。

 滴り落ちるタレの香ばしさが、鼻腔を突き抜けて脳を揺らす。

 カイルなどは、もはや言葉を失い、

 獣のような勢いで肉を咀嚼そしゃくしている。


「あー、お肉も美味しいけど、やっぱり飲み物が……。

 見てよアスタロ、このままじゃ私の『鉄壁の防御』が、

 ガス欠でガタガタだよ。おかわり(酒)は?」


「あるか! 装備代が減るだろうが!

 ……。だが、確かに力が戻ってきたな。

 カイル、いつまでも串を舐めているな。行くぞ」


「うぅ、美味しすぎて、涙が止まりません……。

 これが人生最後の食事にならないことを祈るばかりです……」


 カイルの縁起でもない感想を背に、吾輩たちは

 わずかに軽くなった財布を握りしめ、武器屋へと向かった。

 吾輩は神である。

 そして、今日からはこの世界のルールであり――

 勇者の聖剣の斬れ味よりも、一本の串焼きの値段に戦慄し、

 その香りに理性が崩壊した、ただの創造主である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ