第15話:神、予算不足と王女(?)親父に泣く
先ほど食べた串焼き四本分の代金を支払い、わずかに
軽くなってしまった袋を握りしめ、吾輩たちは
武器屋の暖簾を潜った。
店内には鉄を叩く重々しい音と、油と煤の
匂いが充満しており、壁には無数の剣や斧が
鈍い光を放ちながら並べられている。
「親父! 勇者の装備を整えに来たぞ!
このカイルに相応しい、最高の剣と鎧を出せ!
全知全能の吾輩が直々に選んでやるからな!」
吾輩が肉を食って復活した威厳を全開にして叫ぶと、
奥から熊のような体格の大男が、なぜか
フリフリのピンク色のエプロンを揺らし、
内股でしなやかに顔を出した。
「……勇者だぁ? 寝ぼけたこと抜かすな。
そんな泣きべそかいた貧相なガキが勇者なら、
俺様は隣の国の可憐で清楚な王女様だわよ」
「……。親父、鏡を見てから言え。
そのむさ苦しい髭面で王女を自称するのは、
この世界のバグが過ぎるのではないか?」
吾輩の冷静な突っ込みを鼻で笑い、自称王女の
親父は、汚れた太い指を三本立てて鼻を鳴らした。
「予算は? 金がなきゃ、おままごとで使う
竹光すら売ってやれねえわよ。
うちはボランティア施設じゃないんだからね」
「金貨、九枚と少しだ。
……さっき串焼きを食べなければ十枚あったのだが」
「……。帰りな。金貨九枚じゃ、
まともな鉄のロングソード一振りで
おしまいだ。鎧どころか、研ぎ石すら買えんぞ。
勇者様なら、その辺の石コロでも拾って、
素手で魔王を殴り倒してきなさいな!」
親父の冷徹な一言に、吾輩は絶句した。
さっきの串焼き……。あの一本一本当たりの価値が、
これほどまでに重くのしかかってくるとは!
「……くっ、こうなったら仕方ない。
ルナリエ、そこをどけ!
予算が足りぬなら、吾輩が今ここで
神の力を用いて、最高級の聖剣を創造してやる!
伝説の素材を練り込み、龍をも両断する一振りを
この場で顕現させてやろうではないか!」
吾輩が鼻息荒く、右手に眩い神光を
宿そうとした、その時。
背後から氷のような冷気が突き刺さった。
「アスタロ様。その無駄にまぶしい光を
今すぐ消してください。非常に迷惑です」
ルナリエが、事務用の重くて硬いバインダーの角を、
吾輩の延髄に正確にめり込ませている。
「な、なんだルナリエ! 吾輩は良かれと思って……!
これなら予算の問題も一気に解決するだろうが!」
「いいえ。そんなものを街中で出せば、
大騒ぎになって、騎士団やら神殿の連中やらが
血相を変えて押し寄せてきます。
調査の邪魔です。……金がないなら、
ないなりの知恵を出しなさい」
「ひぃぃ! 何!? 今度は何が起きるの!?
怖いよぉ! やっぱり僕を売って剣を買うんだ!
僕、剣なんて怖くて持てないよぉ!」
カイルが頭を抱えて店内で震え上がる中、
吾輩は渋々、右手の輝きを霧散させた。
親父は「なんだ、安手品か?」と鼻をほじっている。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
王女(自称)の親父と、物理で止める秘書の板挟みで、
本気で神界の実家に帰りたくなった、創造主である。




