第16話:神、なまくらを「不壊(ふえ)」に変える
結局、吾輩たちは自称王女の親父から、店先で埃を被っていた
一番安い「なまくらの剣」と、今にも紐が千切れそうな
「ボロボロの皮防具一式」を、泣く泣く購入することになった。
貴重な金貨九枚は、この最低限のガラクタだけで消え失せた。
「……あ。……本当に行っちゃうのね。
じゃあね、勇敢な勇者様。……死んだら防具だけは
返してちょうだいね、また洗って売るから」
「縁起でもないことを言うな、この髭ダルマ王女!
……。おい、カイル。そんなに肩を落とすな。
このまま魔王の元へ行けとは言わん。ついてこい」
吾輩は、重そうに錆びた剣を抱えるカイルを連れ、
人目に付かない町の外の平原へと、足早に向かった。
王都の城門を抜け、街道に誰もいないことを確認すると、
吾輩は不敵な笑みを浮かべて立ち止まる。
「よし、ここならいいだろう。……。
カイル、そのゴミ……いや、装備を地面に置け」
「え? 捨てちゃうんですか!?
せっかく金貨全部使って買ったのに……。
やっぱり、僕にはこれすら贅沢なんだぁ!」
「違う! 捨てはせん。……少しばかり、
この世界の理を『修正』する」
吾輩はニヤリと笑い、地面に並べられたなまくら剣と、
穴の空いた皮の胸当てに、そっと右手をかざした。
だが、その瞬間。背後でルナリエが、
事務用バインダーを「パチン」と鋭く鳴らした。
「……アスタロ様。何をされるおつもりですか?
創造や召喚は、先ほど禁止したはずですが」
「ひ、ひるむなルナリエ! 分かっている!
伝説級の付与をするわけではない。
攻撃力を万倍にしたり、龍の炎を宿したりもしない。
ただ……『絶対に壊れない』という属性を足すだけだ!」
吾輩は、詰め寄る秘書に対して必死の言い訳を並べ立てた。
「いいか! 旅の途中でこいつの剣がポッキリ折れて、
目の前で『うわぁぁん! 武器がなくなったぁぁ!』と
泣き喚かれる方が、よっぽど面倒だろう!
この『不壊』という属性は、見た目には何も変わらん。
騎士団が見ても『ただの硬いガラクタ』にしか見えんはずだ。
これくらいなら、調査の邪魔にもならんだろう!?」
「……。ふむ。利便性と、あなたの精神衛生上の妥協点、
というわけですね。……認めましょう」
「おお、分かってくれたか! さすが吾輩の秘書だ!」
吾輩は意気揚々と、ガラクタに神力を注ぎ込んだ。
――ピキィィィィィィィィィィィンッ!
見た目は相変わらずボロボロだが、その強度は今、
神の盾すら凌駕する「概念的な不滅」へと変貌した。
「これ、本当に大丈夫なんですか?
こんなに錆びだらけじゃ、一回振っただけで
ボロボロに砕けて折れそうなんですけどぉ!」
「案ずるなカイル! 振れば当たる、当たれば折れん!
これぞ、全知全能の吾輩が贈る『最強の初心者セット』だ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
錆びた剣を概念兵器に作り変えるという、
ルールギリギリの「修正」をドヤ顔で完遂した創造主である。




