第68話:神、女傑の「鍛錬(バグ)」に目を疑う
ヴィータが自信満々に重厚な玄関の扉を開け放つ。
吾輩たちが足を踏み入れたその先には、優雅な
外観からは想像もつかない、混沌とした光景が
広がっていた。そこは広大なトレーニングルームだ。
部屋の中に所狭しと並べられているのは、
奇妙な形状をした金属製の運動器具の数々だ。
吾輩はこの光景に見覚えがあった。
地球という別の神が創造し、そして捨てられた
世界のログ。あそこのテレビなる機械が映し出す、
深夜の通販番組で大げさな外国人が紹介している
インチキ臭い器具の群れそのものではないか。
「アスタロ様。解析不能なガラクタの山です。
論理的な戦闘訓練に使用する代物ではありません。
ただの趣味、あるいは盲信による収集。
管理データとして、極めてノイズの多い空間です」
ルナリエが眉をひそめ、バインダーを叩く。
そこへ、奥から鋭い呼気が聞こえてきた。
音のする方へ目をやると、一台の巨大な
最新型の運動器具の上で、猛烈な勢いで
汗を流している女性がいた。
薄手の運動着に身を包んだその体は、
岩を削り出したかのような筋肉で
ムキムキに鍛え上げられている。
ヴィータがその女性の背中に向かって
大きく手を振って挨拶をした。
「おーい、ヘルガ! 久しぶり!
相変わらず熱心だね。アスタロ、紹介するよ。
彼女はね、ボクが捨てられた別の世界から
救い出し、四天王としてこの世界に
再就職を斡旋した、剛力のヘルガさ!」
ヴィータの声に、ヘルガは運動を止めた。
だが、こちらを振り返るよりも早く、
彼女は「ちょっと待て」と太い声で制した。
そのまま、横に置いてあったシェイカーを掴むと、
粉末の混じった怪しい液体を猛烈な勢いで振り、
一気に喉へと流し込み始めたのだ。
「ぷはぁ! すまない、トレーニング直後の
三十分は筋肉のゴールデンタイムだ。
神だろうが魔王だろうが、この吸収効率を
邪魔することだけは、断じて許さん」
空になったシェイカーを床に叩きつけ、
ようやくこちらを向いた彼女の瞳には、
敵意ではなく、ただ純粋なバルクアップへの
執念だけが宿っていた。
吾輩は神である。
今日からはこの世界のルールであり、
会話よりもプロテイン摂取を優先する女傑の姿に、
最後のデバッグが物理的な筋肉との戦いに
なることを予感し、頭を抱える創造主である。




